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食の達人コラム

日本人ならぜひ極めたい とろっとろの軟らかプリン 土屋敦の男の料理道(6)

2019/4/6

型から出さずにそのままスプーンで食べる「とろっとろ」のプリンがおいしい

最後に、私の子供の頃のプリンの思い出を披露しよう。

小学生の頃、家に子ども向けの英国料理のレシピ本があった。これをパラパラとめくっていると、「パンのプディング」というレシピが目にとまった。母親に「プディングって何」と聞くと「プリンのこと」だという。プリンが大好きだった私は早速作ってみた。確か、パンの切れ端とレーズン、卵と牛乳を混ぜたものをオーブンで焼き、シナモンをふりかけたようなものだったと思うが、想像していた「プリン」とはずいぶん違っていた。

それでもめげずに、同じレシピ本に載っていた「ライスプディング」というのを作ってみたのだが、こちらはどろどろの甘いおかゆみたいなもので、そもそも、ごはんを甘く味付けすることに慣れていなかった私は、ものすごくまずく感じ、残してしまった。

それでも、その後もなぜか「プディング」という名に妙に執着してしまい、ヨークシャー・プディングもクリスマス・プディングも作ってみたのだが、いずれもまったくプリンらしくないものだった。

英国でいうプディングというのは、どろどろしたものを蒸すなり天火なりで加熱して固めるもの、といったニュアンスのものらしい。そのなかで我々が想像するプリンに一番近いのがカスタード・プディングだ。

とはいえその後海外で食べたカスタード・プディングは日本のそれに比べて結構硬く、小さな穴、すなわちスが入っているものが多かったし、手で持てるほど硬いものもあった。安いカフェや屋台ばかりで食べていたので高級店ではまた違うのかもしれないが……。日本ほどなめらかさや軟らかさ、美しい仕上がりには執着はないようなのだ。

日本にはプリンと同様に、卵を入れた液体を熱によって固める料理として、茶わん蒸しというものがある。茶わん蒸しにおいては、スが入ったら、それは失敗作であり、また可能な限りだしの量を多くして、なんとかぎりぎり固まるぐらいの軟らかいものがおいしいとされてきた。

そんな日本人ならではの感覚が、日本のプリンにも反映されているのではないだろうか。日本ではプリンに対しても、軟らかくとろとろとしたものを追求する傾向があるように思う。母は、私の幼少期にアルミのプリン型にカラメルと卵液を入れて蒸し上げる蒸しプリンをときどき作ってくれたが、その際は、中にスが入ってしまうかどうか、硬くなりすぎていないかに執着し、プツプツと細かな穴が開いてしまったり、少し硬めの仕上がりだったりすると、「失敗した!」と嘆いていた。

しかし、成人して、欧州や米国、中南米、アジアなどでプリンの類いを食べてみると、もっとひどいものがいくらでも出てくる。世界の水準で見れば、母のプリンは決して失敗とはいえない出来だったと思う。

土屋 敦(つちや あつし)

ライター 1969年東京都生まれ。慶応大学経済学部卒業。出版社で週刊誌編集ののち寿退社。京都での主夫生活を経て、中米各国に滞在、ホンジュラスで災害支援NGOを立ち上げる。その後佐渡島で半農生活を送りつつ、情報サイト・オールアバウトの「男の料理」ガイドを務め、雑誌などで書評の執筆を開始。現在は山梨に暮らしながら執筆活動を行うほか、小中学生の教育にも携わる。著書に『なんたって豚の角煮』『男のパスタ道』『男のハンバーグ道』『家飲みを極める』『男のチャーハン道』などがある

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