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スター・ウォーズのような新種目 フェンシングで構想 日本フェンシング協会・太田雄貴会長に聞く

2019/3/29

大会ポスターの制作には映画監督・写真家の蜷川実花さんを起用した(日本フェンシング協会提供)

――太田会長は、フェンシング大会の改革にも取り組んでいます。昨年12月には日本選手権を東京グローブ座(東京・新宿)で開きました。なぜ劇場だったのですか。

「どうやったら観客が非日常的な体験ができ、選手が格好よく見えるかを考えた結果です。ビジネス化はその先にあって、まずはコンテンツがよくなければどうしようもない。選手を格好よく見せるには照明が大事です。既存の建物で照明設備があることが前提になりました」

「どうせやる以上はすてきなことをやりたいと考え、大会ポスターの制作に映画監督・写真家の蜷川実花さんを起用し、見た人が『すごい』と感じるような写真を撮ってもらいました」

■エンターテインメント化を推進

――最も高いS席で5500円(手数料込みで6000円)と強気の価格設定でしたが、約700の全席が売り切れました。

「高単価でも売れることを証明するのが第一の目的でした。2年ぐらい前までチケットを何十枚(無料で)配っても誰一人来てくれなかったことを振り返ると、ここまで価値を高められたことには感慨深いものがあります」

「最初から、自分の中では価格の上限は8000円でした。それを超えると、お客さんが高いと思うのではないかと。例えば、劇団四季のミュージカルだと一般価格は9800円、会員価格は8800円でした(16年4月の値上げ前)。このあたりを参考にしながら、ちょっとお値打ち感のある6000円なら勝機があると考えました」

日本選手権を開いた東京グローブ座は張り出し舞台と観客席がステージを囲む円形空間が特徴だ(18年12月、東京都新宿区)=写真は竹見脩吾

――ビジネス化の手応えは得られましたか。

「いいえ。現段階では、ビジネスとして回せるかはちょっと難しいと考えています。(フェンシング協会の)事業予算に占める大会予算は10%程度しかないからです。大会は、フェンシングをブランディングしていくために必要なツールと考えています」

――今後はどのような点に注力していきますか。

「大会についてはエンターテインメント化を推進していきます。もちろん、選手が主役の『アスリートファースト』が軸であることに変わりはありませんが、私たちがやるべきことは、競技の勝敗に左右されないビジネス基盤をつくっていくことです」

「実は、私たちは観客の正しい属性データを拾えていません。チケットの販売を外部に任せたためです。ですから今年の大会の一番の肝は、データをしっかり集めにいくことです」

――会場の規模については、どう考えますか。

「今年はできれば、もっと大きな会場で開催する方針です。18年は私だけでも100人くらいの方から、チケットを工面できないかと尋ねられて、心苦しかったですからね。一方でビジネスモデルについても、放映権で稼ぐのかチケット収入を拡大するのかを考えていかなければなりません」

フェンシングの剣先の軌跡を可視化する「フェンシング・ビジュアライズド」を電通などと共同で開発した(企画制作/Dentsu Lab Tokyo 、Fencing Visualized/ライゾマティクスリサーチ 、写真は竹見脩吾)

――Bリーグのように3000人以上はいけそうですか。

「そこまでは行きたいですね。ほかの競技の関係者が見て、『選手の顔が見えなくてルールも分かりにくいフェンシングで、あそこまでやったのか』と思ってもらえるような場所で開催し、スポーツ界に改革を進める風潮が出てくるとうれしいです」

「私たちはフェンシングの改革に取り組んでいますが、スポーツ界に一石を投じるような取り組みをしたいのが本音です。フェンシングのようなマイナースポーツの協会でも、努力によっていくらでも変えられることを証明したいのです」

――20年の東京五輪に向けて、競技の見せ方については、どう考えていますか。東京グローブ座では、どちらにポイントが入ったのかをLED(発光ダイオード)ライトで分かりやすく示していました。

「フェンシングの剣先の軌跡を可視化する『フェンシング・ビジュアライズド』を東京五輪で導入することを目指しています。(18年12月に)私が国際フェンシング連盟の副会長になったことも、チャンスだと考えています。これから国際オリンピック委員会(IOC)や国際フェンシング連盟で協議していきます」

■副業・兼業限定で外部から人材

19年1月には副業・兼業限定でプロ人材を採用した。左から経営戦略アナリストの江崎敦士氏(外資系デジタルサービスプロバイダー勤務)、太田氏、強化本部副本部長の高橋オリバー氏(日本コカ・コーラ勤務)

――19年1月にはPR、マーケティングなどのプロフェッショナル人材を4人採用しました。公募の段階から、副業・兼業に限定したのは異例です。

「これまでスポーツ界は、ボランティアで協会関連の仕事をお願いするのがほとんどでした。だから協会関係者はその競技の出身者で占められています。しかし(目標達成の)コミットが弱いうえ、優秀な人材にアクセスできません。昨年はいくつかのスポーツ団体でパワハラなどの問題が起きましたが、背景には組織基盤の弱さがあったと思います」

「折しも、政府が働き方改革を踏まえて副業・兼業を推進しています。この条件なら私たちも、ビジネス経験のある優秀な人材にアクセスできるかもしれないと考えました」

――どのような効果を期待していますか。

「スポーツ団体の関係者と話をすると、いまだに『金メダルありき』の人が多いのが現実です。でも、東京五輪で日本の金メダルの獲得数が増えるほど、一つ一つの注目度は下がってしまいます。(競技力の)強化は当然重要ですが、それは強化本部長に任せて、我々は今回採用したプロ人材と一緒に、ビジネス化に力を注いでいきます」

「東京五輪で選手はメダルを追いかけますが、私たちにとっては、どうすれば今持っているリソースを最大化して20年を迎えられるかが重要になります。つまり、競技力の強化と運営組織の強化の両方を進める必要があります。この部分は、東京五輪が終わった時点で、競技団体によってかなり差がついていると思います」

(聞き手は日経BP社日経×TECH 内田泰)

太田雄貴
1985年11月生まれ、滋賀県出身。2007年同志社大商学部を卒業。五輪は04年アテネ、08年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロの4大会に出場。北京では男子フルーレ個人で銀メダル、ロンドンでは男子フルーレ団体で銀メダルを獲得した。17年に日本フェンシング協会会長に就任。18年12月から国際フェンシング連盟副会長を兼務。フェンシング以外では日本アーバンスポーツ支援協議会副会長なども務めている。

[スポーツイノベイターズOnline 2019年2月20、21日付の記事を再構成]

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