『脱力タイムズ』 報道かコントか、真面目に脱線番組
フジテレビのバラエティー『全力! 脱力タイムズ』は、2015年4月からスタートした。報道番組風のセットで有田哲平ふんするアリタ哲平キャスターを中心に、真剣な面持ちで日本の社会問題などを取り上げるが、VTRやフリップには笑わせる仕掛けが満載。芸人のゲストだけが台本の内容を知らず、目の前の状況に即興でツッコんで笑いが成立する凝ったつくりが受けている。
もともとは年末年始の番組募集で編成が出した企画だった。「社内にB級ニュースを"脱力ニュース"としてメールリストで送ってくれる先輩がいて、そこから着想を得ました」(編成企画・狩野雄太氏)
開始当初は「どんなB級の話題でも識者は自分の専門分野に引き込んで語れる」ことを打ち出す狙いで衝撃映像などを用いるスタイルだった。「でもやってみたら、オリジナリティーに欠けることに気付いたんです。少しシニカルで、いたずらっぽい笑いが好きな有田さんにより合ったものをと、半年以上試行錯誤して今のコント調の形になりました」(総合演出・名城ラリータ氏)
番組の鍵となるのがゲスト芸人の技量だ。芸人サイドには16~18ページある台本の、内容が全く違う嘘バージョンを渡すのだという。「それを使って打ち合わせもします。カメラが回っていないところからスタッフ全員が演技をしてだますことも。今はバレてきて『なぜそんな微妙なドッキリを毎回仕掛けるんだ』と言われますが(笑)」(名城氏)
そのように周到に用意された状況があり、戸惑ったりあきれたりしながらも、それぞれが個性を発揮して笑いを増幅させている。
もう1人のゲストである女優には台本を覚えてきてもらう。「ニュース番組のコメンテーターの役です、と伝えます。『だから常に真面目な態度ですし、基本は笑わないですよね』と、設定を理解していただきます」(名城氏)
とはいえ、随所に笑わせる仕掛けがあり、芸人がどう反応して何と言うかは、そのときにならないと分からない。笑いをこらえる姿も見どころになっている。「笑ってしまったらそれはそれでチャーミングですし、人柄が分かる」(狩野氏)
このフォーマットが確立すると共に番組の定着に貢献したのが、滝沢カレンを起用して16年の秋頃から始めた映像のコーナー「THE 美食(絶景)遺産」だ。ナレーションで激しく読み間違えたり、実況では塩を「いい意味で白い粉」と例えたり、滝沢の独特のセンスが評判に。「企画はあったのですが、はまる人がいなかった。ある作家さんの推薦で滝沢さんに行き着き、テストでやってみたらむちゃくちゃで(笑)。急に4番バッターが現れた感じでした」(名城氏)
今では番組が認知され、北川景子や広瀬すずら自ら出演を希望する女優も多数いるという。開始当初の視聴率(ビデオリサーチ関東地区調べ)は4%程度だったが、最近は7%台や同時間帯1位になることも増えてきた。「いろんなことを揶揄(やゆ)することも多いですが、批判がほとんどないのは視聴者との共犯関係でご理解していただけているのだと思います」(狩野氏)
(日経エンタテインメント!3月号の記事を再構成 文/内藤悦子)
[日経MJ2019年3月15日付]
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