MeではなくYou 引っ掛かる曲名の妙(川谷絵音)ヒットの理由がありあまる(8)

日経エンタテインメント!

実はこの連載、音楽を作るよりはるかに筆が重くて…。他のアーティストの曲なので、中途半端には書けないんですよね。そんな話はさておき、今回はOfficial髭男dismの『Stand By You』です。

彼らのことは割と前から知ってはいたのだが、“歌と演奏がうまいバンド”としてだけ認識していた。正直なことを言うと、歌声を加工するオートチューンの使い方やアレンジの今っぽいだけな感じが好きじゃなかった。そんななか、最近よく配信チャート上位にあがっている『Stand By You』を聴いてみたところ…、すみません、すごく良く出来た曲でした!

歌も演奏ももちろんうまいのだが、メロディーがめちゃくちゃ良い。サビの「Stand By You」という繰り返しも、安易にメロディーが上がっていかず、「You」にかけて下がるメロディーになっていて良い意味で裏切られた。そして、その後の「Oh Oh」の部分がサビの第2段階になっていて、さらに盛り上がる流れを作っている。「Oh Oh」という合唱ワードをサビで大々的に使うと、その「一緒に歌おうぜ感」に拒絶反応が出てしまいがちなのだが、この曲にはそれがない。ダサくないのだ。なぜか。それは最近僕がよく言っている「歌のカロリーの低さ」だ。さらっと高いキーをミックスボイスで出しており、一緒に歌おうぜ的な押し付けがましさが全くない。何も強制されることなくリスナーになれるわけだ。

CDが売れなくなり、今やアーティストの収入源はライブに移り変わった。その影響で、ライブで盛り上がることを意識した楽曲が増えている。だから家で音楽を聴いていても、無理やりライブ空間に参加させられている気になることが多い。そう、その最たる押し付けがましさが「リスナーも歌ってくれよ」と言わんばかりの、無駄な歌の熱量と「Oh Oh」のような合唱ワードだ。感情を曲に込めた熱量とは違う、明らかにライブを意識したであろう熱量。また、ライブを意識する以外にも、圧倒的に技術がないバンドやアーティストは熱量でごまかすしかない。でも彼らにはしっかりとした技術がある。だから無駄な熱量が音源にないのだ。

最後のサビは転調して高い「シ」の音になるのだが、裏声にならずに楽々と歌っている。男性のキーではほとんどの人がきれいに出ない音だ。それをボーカルの藤原くんは、低いキーの時と変わらない声の状態で出している。声質や歌い方はワンオクのtakaくんに少し近いものを感じる。前回のback numberの記事でも書いたが、こんな簡単に歌われると自分でも歌える気がするのだが、実際に歌うとすごく難しい。そんなことを微塵も感じさせない余裕が藤原くんの歌にはある。

他にも、ギターがサビ裏でこれでもかとずっと弾いている、繰り返しの「タッタッタータッタッター」のスタッカートのフレーズがめちゃくちゃ頭に残る。ギターフレーズまで歌ってしまいたくなるほどだ。まさに繰り返しの美学と言えよう。

あと「Stand By You」ってフレーズが意外とあんまり聞いたことなかったなと。「Stand By Me」が有名すぎたからだとは思うが、「Stand By You」というフレーズは盲点だった。「Me」じゃなく「You」というところにそもそも引っ掛かりがあったわけだ。「あれ?」と思わせたら音楽は勝ち。というのも、聴いてもらえる引っ掛かりは、曲名にもあるからだ。

ストリーミングで音楽を聴く人が増えた反面、音楽はスクロールされるものになった。そんな中で曲名に対する引っ掛かりは、スクロールの指を止める大事な要因だ。ゲスの極み乙女。の『私以外私じゃないの』も『ロマンスがありあまる』も引っ掛かりがあるでしょう。「曲名=サビ」なことも多いため、曲名に引っ掛かりがあるということは、サビでも引っ掛かるということだ。当初はこの曲を連載用に聴いていたが、気付けば毎日聴いている。僕の新たなカラオケのレギュラー曲になりそうだ。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。ゲスの極み乙女。が結成7周年を記念して、5月12日に豊洲PITでワンマンライブを開催する。

[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]

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