時計

東大航空工学→アート エルメス注目の若きデザイナー デザインエンジニア 吉本英樹氏

2019/3/19

デザインエンジニア 吉本英樹氏

スイス・ジュネーブで2019年1月に開かれた高級時計の国際見本市「ジュネーブサロン」(SIHH、Salon International de la Haute Horlogerie)。フランスの高級ブランド「エルメス」のブースを飾ったのは巨大な球体のオブジェだった。手がけたのは英国ロンドンを拠点に活動する若きデザインエンジニア、吉本英樹氏。智弁学園和歌山高校から東京大学に進み航空宇宙工学を専攻、英国の美術系大学院大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で博士号を取得した異色の経歴の持ち主だ。吉本氏に最新作とその背景などについて聞いた。




エルメスがSIHHに設けたブース

――エルメスのブースでは入り口の巨大な球体オブジェが印象的でした。

「最初に与えられたのは『ダブルムーン』と『ドリーム』という2つのキーワードでした。キーイメージとなった新作時計『アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ』の文字盤(ダイヤル)には、月の満ち欠けを表示する『ムーンフェイズ』が2つあり、北半球と南半球それぞれから見える月を表現しています」

「ダブルムーンといっても2つの月ではなく、2つの視点、つまり私の視点とあなたの視点を意味するものだと考えました。そのとき思い出したのが、阿倍仲麻呂の和歌です。遣唐使として中国に渡り、帰国することができなかった阿倍仲麻呂が『天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも』と読んだように、その空間的、時間的な隔たりは、ひとつの月を介して分かち合うことができる。地球に生まれた全ての人たちが、そんなことを思い、あの月を見ていると考えると、すごく美しく思えて。そこで今回、インスタレーションの真ん中に大きな地球を持ってこようと考えました」

エルメスの新作ウオッチ「アルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌ」 ケース:ホワイトゴールド製 直径43mm 3気圧防水 文字盤:メテオライト製 駆動装置:機械式自動巻 パワーリザーブ約50時間 発売予定:2019年6月ごろ 予価:320万円(税別)=Joel Von Allmen

「直径は約3.5メートル。表面を三角形にカットした太陽電池で覆いました。地球のオブジェをつくるにあたり、大きな球体を青く塗るだけでは面白くないし、感動もない。何かそこに深みを与える素材はないかと考え、行き着いたのが太陽電池でした。すごく複雑な青色で、光の反射もすごく複雑。ペイントや表面処理では到底再現できない、魅力的な素材でした。加えて地球という惑星を表現するには非常に適した、理にかなった素材だと考えました」

「太陽電池には単結晶シリコン製と多結晶シリコン製があります。現在は発電効率もよい単結晶が主流なのですが、私たちは表情が複雑で美しい多結晶を選びました。ただ主流ではないので、使えるものを探すのにずいぶん苦労しました。何十社も尋ね回ってようやく中国で廃棄寸前の古い太陽電池を確保しました」

「加工も苦労しました。太陽電池はすごくもろいんですよね。紙よりも薄いので、すぐ割れてしまう。それをひとつひとつアルミニウムの板に接着して三角形に正確にカットしなくてはなりません。全部で2万480個あるのですが、一つ一つウオータージェットで切って、手作業で磨いて貼っていきました。本当にものすごく大変でした」

2万480個の太陽電池の断片をオブジェの表面に貼り付けた。白い線は「バスバー」と呼ぶ電気回路。「バスバーが多いと表面が白い線ばかりになってしまうので、できるだけバスバーの少ない多結晶の太陽電池を探した」と話す

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