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有森裕子 安易な鉄剤注射「ドーピングと同じ」

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

皆さんこんにちは。寒くなったり暖かくなったりを繰り返して、季節が少しずつ春に近づいてきましたね。

3月3日には、真冬のような冷たい雨が降るなか、東京マラソン2019が開催されました。2018年に男子マラソンで日本新記録(2時間5分50秒)を樹立した大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)は、残念ながら29km付近でリタイアとなりましたが、初マラソンの堀尾謙介選手(中央大)をはじめとした4人のランナーが新たに、2019年9月に開催されるMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ、東京五輪マラソン代表決定レース)の出場権を獲得しました。

さらに、3月10日に開催された名古屋ウィメンズマラソンでも、福士加代子選手(ワコール)ら5人の女子選手が新たにMGCへの出場権を獲得しました。誰が五輪の切符をつかみ取るのか、ますます楽しみな展開になってきました。

結果を出すための安易な鉄剤注射が高校駅伝で問題に

さて、今回は2018年末に問題になった、ランナーの「鉄剤注射」について考えたいと思います。ご存じない方のために簡単に説明すると、この問題は、高校駅伝の一部の強豪校で、競技力向上のために、指導者や選手が不適切な鉄剤注射を行っていることが新聞報道で明らかになったというものです。

鉄分は、全身に酸素を運搬するヘモグロビン(血液中の赤血球に含まれる色素)の生成に不可欠な栄養素です。鉄分が不足すると、ヘモグロビンが十分に作られなくなって貧血(鉄欠乏性貧血)になり[注1]、動悸(どうき)、息切れ、めまい、頭痛、倦怠感、疲れやすさなどが表れます。血液検査で鉄欠乏性貧血と診断されると、食事ではとりきれない鉄分を錠剤や注射で補う治療が行われます。

マラソンは有酸素運動と呼ばれるだけあって、走っている間は全身の筋肉が大量の酸素を必要とします。貧血で十分な酸素を運搬できなくなると、タイムが落ちるため、貧血対策はランナーにとって死活問題と言えます。

今回問題になったのは、駅伝の指導者が、十分な血液検査も受けさせないまま、走力アップのために、選手に安易に鉄剤注射を推奨していたことです。日本陸上競技連盟の調査によれば、鉄剤注射は近年、中学生ランナーにも広がっているそうです。

重度の貧血で鉄剤注射を行っていた現役時代

私がこの問題に強い関心を寄せているのは、私自身も現役時代にひどい貧血に悩まされていたからです。

長距離選手は長時間の激しい練習により、大量の汗をかきます。汗の中には鉄分も含まれていて、汗と一緒に皮膚から失われていきます。また、女性ランナーは月経でも経血と一緒に鉄分が失われるため、男性よりも貧血になりがちです。さらに、酸素濃度の低い場所で高地トレーニングを行うと、体の中に酸素を取り込むために鉄を大量に消費するため、ますます貧血になりやすくなります。

現役当時の夏場のトレーニングでは、汗とともに鉄分が失われて体重も3kgほど落ち、鉛のように体が重くなって眠くなることが度々ありました。その時代、血液検査などは頻繁にしませんでしたから、体の異常を訴え、病院に行って初めて、鉄欠乏症貧血と診断されたのです。血液中のヘモグロビンの量が、男性で1dL当たり13g、女性では12gを下回ると貧血と診断されるようですが[注2]、当時の私は6gしかありませんでした。

[注1]貧血はその原因によって鉄欠乏性貧血、溶血性貧血、出血性貧血などがある。スポーツ選手に最も多いのは、鉄分不足によって起こる鉄欠乏性貧血。

[注2]年齢や検査を行う医療機関によって診断基準には多少の差がある。

鉄分は体内に吸収されにくく、蓄えにくい物質です。私の場合、ヘモグロビンの数値が低すぎて食事からの鉄分摂取ではとても追いつかず、最初は鉄の錠剤を摂取しました。ところが、体質のせいか、鉄剤を飲んでも胃が荒れるだけで体内に吸収されず、一向に数値が改善しません。そこで仕方なく、より吸収効率が良く速効性のある鉄剤注射を打つことにしました。

鉄剤を打つと、とても体が楽になり、まるで空中を飛んでいるみたいに軽やかに走れたことをよく覚えています。貧血がどれだけパフォーマンスに影響していたのかを、身をもって実感したのです。当時、日本代表として世界大会に出場するレベルの選手で、同じように重度の貧血で鉄剤注射をしていた女子選手は少なくありませんでした。

ただし、この鉄剤注射はあくまでも鉄欠乏症貧血の治療として行ったものです。血液検査でヘモグロビンの値の推移を見ながら治療を続け、改善すれば当然中止していました。鉄欠乏状態を改善させるために鉄剤注射を行うと、貧血は改善されますが、血液内にあるリンが減って骨がもろくなるというデメリットもあります。また、鉄剤注射を長期的に繰り返すと鉄過剰になる危険性があり、体内にたまって将来的に肝硬変や糖尿病などを引き起こす恐れがあるそうです。

「確信犯」による鉄剤注射はドーピングと同じ

今回問題になった鉄剤注射は、治療のためではなく、持久力を高め、レースで良い結果を出すために打っている「確信犯」に近いようです。その背景には、減量のための食事制限によって低栄養状態となり、食事から十分な鉄分摂取ができなくなっていることもあるようです。

読売新聞の報道(2018年12月9日付)によると、ある高校駅伝の監督は、選手に鉄剤注射を打たせたことを認め、「栄養剤の一種だと思っていた」と話しています。こうした行為は成長段階の選手たちの体に大きな負担をかけていることは否めず、禁止薬物ではないものの、ドーピングに等しい行為と言えるのではないでしょうか。

今回の問題を受けて日本陸上競技連盟は、安易な鉄剤注射の根絶に向けて動いています[注3]。全ての年代の選手に対して鉄剤注射を原則禁止とした上で、全国高校駅伝においては、2019年度からチームでの鉄剤注射の使用の有無や人数、理由を明記した申告書の提出などを求めていくようです。日本医師会も、全国の医師に対して、競技者や指導者からの安易な鉄剤注射の要望には応えず、適正に使用するよう注意喚起を行いました。

こういう事実が明らかになると、指導者は保護者や選手に対して、鉄剤注射を行う理由をどのように説明していたのだろうかと思います。選手自身にも、保護者の方々にも、そうした注射を行うことで体にどのような影響があるのか、もっと関心を持ち、指導者の言うなりではなく、自分の体は自分で守るという意識を持ってほしいと思います。

私は今回の問題で、鉄剤注射の使用を全否定しているわけではありません。私自身がそうだったように、鉄剤の投与を必要とする重度の貧血に悩む選手はいるでしょう。きちんとした食生活を送っていても、ヘモグロビンの量が基準値を下回り、鉄剤の内服による治療も困難な選手は、医師の診断により鉄剤注射を行わなければ日常生活に影響するケースも出てくるはずです。

今求められているのは、こうした医学的な必要性のない、不適切な鉄剤注射を根絶することです。このコラムでも再三お話ししてきましたが、スポーツの本来の目的は、人々の健康を増進することであり、害することではありません。目先の成績を追い求めるあまりに、選手たちの健康を、そして未来を壊すことのないよう、切に願います。

[注3]日本陸上競技連盟ホームページ【会見レポート】鉄剤注射に関する今後の対策について

(まとめ:高島三幸=ライター)

有森裕子
元マラソンランナー1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

[日経Gooday2019年3月12日付記事を再構成]

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