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パラアスリート 夢を追う

命がけで挑む電動車椅子サッカー 難病感じさせぬ迫力 映画「蹴る」が描く選手たち

2019/3/15

彼女の華麗な技、回転キックには意外なエピソードがあった。フットガードで強烈なシュートを打つためには、絶好のタイミング、「面」でボールを捉えなくてはならない。シュートコース、パワーもボールになかなか伝わらないからだ。そんなとき、フィギュアスケートの浅田真央のジャンプ「トリプルアクセル」を見るチャンスがあり、タイミング、回転の技術をビデオで徹底的に研究したそうだ。

一日1200キロカロリー摂取を心がけて体重を落とさないようにし、筋力を維持するためにリハビリを続けてコートに立つ。日々、病の進行と闘うトップアスリートである。

■食事が最も苦しいトレーニング

呼吸器をつけてプレーする東武範(18年12月、日本電動車椅子サッカー選手権大会)=映画「蹴る」製作委員会提供

永岡と共にドキュメンタリーの中心となる東武範(ナンチェスター・ユナイテッド鹿児島)は筋ジストロフィーで小学生から車椅子を使い、10代後半には手を動かせなくなり電動車椅子を使用してきた。呼吸器を付けて試合に挑むが、固形物を摂取するのが難しく食事がもっとも苦しいトレーニングだという。W杯を前に、体力を維持する必要があった。「サッカーがしたい」と、ある重大な決断をする。彼らの情熱を知れば知るほど「なぜそこまで……」そんな問いが浮かぶ。

永岡はシンプルにこう答える。

「難病は、日々進行と闘わなくてはなりません。次の試合に出られるのか、いつサッカーができなくなるのか。みんな同じ状況に直面しながら、一日一日を命がけでサッカーに挑戦している。そういう姿を見ていただければうれしいです」

永岡は同じSMAで亡くなった友人と、いつか一緒にサッカーをやろうとずっと夢を見ていた。「悲しいけれど、友人の分も頑張らなくてはと思っています」と、言葉に力を込める。株式会社マルハンに勤務し在宅で仕事をこなす平日、サッカーをする週末がやって来るのが楽しみで仕方ないのだという。

映画には、チームメートが亡くなるシーンも淡々と織り込まれている。ケガや病気を克服して復帰を果たす勇気はもちろん尊い。しかし、病の進行と向き合いながらスポーツを続ける勇気も存在するのだと教えられる。

■競技で最も不安なことは…

試写会に出席した選手の吉沢祐輔(左)、永岡(中央)、監督の中村和彦(19年2月27日、東京都文京区)

ドキュメンタリーには、東と同じように「サッカーのために」呼吸器を付ける決断をした吉沢祐輔(レインボーソルジャー)も登場する。日本サッカー協会で行われた試写会で話を聞いた。

「もし電動車椅子のために呼吸器をつけていなければ、僕は死んでいたかもしれません」と、落ち着いた様子で言う。医師からは装着を指示されたが、むしろつらく、人前に出るのは嫌だと拒否してきた。しかし、電動車椅子の選手たちが呼吸器をつけて、生き生きとサッカーをする姿に驚かされる。

「呼吸器をつけてもこうして活躍できる。そのために自分もつけてプレーをしようと思いました。僕たちにとってやはり食事は厳しいトレーニングですが、おかげで随分体力がついたんですよ」

体重は10キロ近く増え、車椅子の上で体をより安定させるための体幹も強さを増した。

「蹴る」とはサッカーであり、彼らにとって「生きる」と同じ意味を持っているのではないだろうか。

ドキュメンタリーの中には競技する姿だけではなく、率直な人間関係や、周囲の介護に支えられる日常も丹念に描かれており、そうした場面ひとつひとつにエネルギーがみなぎっている。20年の東京パラリンピックに向けてパラスポーツ、障がい者との共生すべてを、改めてスポーツから力強く発信する映画でもある。

吉沢に「競技をしているなかで一番不安なことは何か?」と聞いた。呼吸器をつけながら少し間を置いたが、吉沢の声は軽快だった。

「バッテリーです。呼吸器と車椅子の両方に使わなくてならないので、消耗が激しいんです。急速充電器を必ず持っていきます」

輝く笑顔を見て、自分を恥じた。不安とは病気についてのものだろうと勝手に思い込み、答えを待っていたからだ。重いドキュメンタリーを見終えたとき、背中を押されているのはこちらのほうだと分かった。

=敬称略

(スポーツライター 増島みどり)

映画「蹴る」公開のお知らせ 3月23日(土)からポレポレ東中野ほかで全国順次公開する。監督は障害者サッカーのドキュメンタリー映画を撮り続けてきた中村和彦さん。出演は永岡真理さん、東武範さんなど、電動車椅子サッカーのW杯を目指す選手たち。彼らのトレーニングや試合の様子から家族のサポート、恋愛などの日常生活までを詳細に描いている。詳しくはホームページ(https://keru.pictures/)。

増島みどり
1961年、神奈川県鎌倉市生まれ。学習院大卒。スポーツ紙記者を経て、97年よりフリーのスポーツライターに。サッカーW杯、夏・冬季五輪などを現地で取材する。98年フランスW杯代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」でミズノスポーツライター賞受賞。「In His Times 中田英寿という時代」「名波浩 夢の中まで左足」「ゆだねて束ねる ザッケローニの仕事」など著作多数。「6月の軌跡」から20年後にあたる2018年には「日本代表を、生きる。」(文芸春秋)を書いた。法政大スポーツ健康学部講師

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