また、人事総務部門の担当者と産業医とが、日ごろ緊密に情報交換しておくことも大切です。常勤でない産業医は面談できる社員数が限られます。1回の訪問で効率よく面談できるよう、事前に情報共有しておけば素早い判断ができます。また、今回は就労制限に対して、当該部署の上司がすぐに理解してくれたことも早期回復の大きな要因でした。
安易に休職すると復帰が難しくなる懸念も
3つ目はAさんをすぐに休職させなかった点です。心身の疲労がたまっているからといって、安易に休職してもらうと、本人が「職場に迷惑をかける。同僚の目が気になる」とプレッシャーを感じかねません。休んでいるつもりが実はストレスは減らず、復帰が遅れる可能性もあります。最終的な目標は通常通りの業務に復帰できることです。そこから逆算して治療法を考えることが重要なのです。もちろん、休職のほうが適切な場合もありますので、慎重な見極めが求められるのは言うまでもありません。
今回は3つの条件がうまくそろいました。ただ、実際にはAさんのように自覚症状があっても会社側に連絡するケースは少ないかもしれません。そうした場合は、どうすればよいか。人事総務部門が社員の勤務状況をこまめにチェックすることは有効です。実際、勤怠管理情報から、遅刻や欠勤が増えていることに気付き、産業医に面談を勧めて早期発見につながったケースもあります。遅刻や欠勤はメンタル不調の前兆であることが多いのです。
厚生労働省はメンタル不調を予防するため、職場において以下の4つのケアを提唱しています。
・セルフケア
・ラインによるケア(管理職や上司など)
・事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医、保健師、人事労務管理スタッフなど)
・事業場外資源によるケア(社外の専門的な機関や専門家など)
以上の4つが速やかに機能するような連携が、メンタル不調の予防につながると思われます。
※紹介したケースは個人が特定できないよう、一部を変更しています。
