災害時の性被害防げ 避難所対策、女性の視点欠かせず
東日本大震災から8年。あえて災害時における性被害の問題について問い直したい。近年日本は、熊本地震や北海道地震、西日本豪雨による土砂災害など大規模な自然災害に遭遇。そうした「非常時」には、平時配慮が必要とされることがらも、とかく後回しにされがちだからだ。
熊本地震の後、熊本市は「避難所・避難先では、困っている女性を狙った、性被害・性暴力などが増加します」との啓発チラシを配布。そこには熊本地震のみならず、1995年の阪神大震災での、被害の事例が綴(つづ)られていた。
「避難所で、夜になると男の人が毛布の中に入ってくる」「更衣室を段ボールで作ったところ上からのぞかれた」といったもの。だが、「皆、大変なのだから少しのことは我慢すべきだ」などと取り合ってもらえない場合も多いという。
このような問題に対し、内閣府は2013年に「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を作成。避難所の開設においては、「異性の目線が気にならない物干し場」をはじめ、物理的な環境整備のチェックシートを設けた。「女性用品(生理用品、下着等)の女性の担当者による配布」など具体的な項目が並ぶ。東京都も18年に女性の視点を盛り込んだ防災ブック「東京くらし防災」を配布。それぞれの地域特性に即した対応への目配りは、今後も極めて重要だ。
内閣府の指針では、避難所の運営管理について、「管理責任者への男女両方の配置」「自治的な運営組織の役員への女性の参画の確保」などを求めている。改めて、災害対策を巡る意思決定において、多様な視点は欠かせまい。この視点は、高齢者、障害者、妊産婦らへの適切な配慮にも、大いに寄与するはずだ。
最近は心のケアを含め女性警官の活躍は災害現場に広がり、女性消防団員数は増加傾向にある。災害対策でもダイバーシティ(人材の多様性)が必要とされている。「女性の活躍」は、現在国の政策で経済戦略の位置づけが強調されがちだが、「誰もが暮らしやすい社会づくり」への視座が忘れられてはならない。
災害という「非日常」で起こる人間同士の問題は、日常生活に内包されていた課題がより先鋭化して現れやすい。「非常時だから」の一言で押し込めることのできない問題を防ぐうえでも、平時から「多様性の尊重」が必要と考える。
1970年生まれ。詩人。中原中也賞を受賞。「『居場所』のない男、『時間』がない女」(日本経済新聞出版社)を執筆し社会学者としても活躍。1児の母。
[日本経済新聞朝刊2019年3月11日付]
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