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命綱無し900m絶壁登はん 記録映画がオスカーに

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/20

ナショナルジオグラフィック日本版

第91回アカデミー賞は「グリーンブック」の作品賞が話題となった。実はナショナル ジオグラフィックが制作したドキュメンタリー映画も長編ドキュメンタリー賞を受賞した。それが「フリーソロ」だ。この映画は、ロッククライミングの世界では誰もがその名を知るアレックス・ホノルド氏の挑戦を追った作品だ。彼の挑戦を動画をまじえて振り返ってみたい。

◇  ◇  ◇

2017年6月3日、米カリフォルニア州にあるヨセミテ国立公園を代表する一枚岩「エル・キャピタン」を、安全用の道具もロープも使わない「フリーソロ」と呼ばれる方法で登り切った男性がいた。クライミング史上まれに見る偉業を成し遂げたのが、アレックス・ホノルド氏だ。

ドバイの超高層ビルブルジュ・ハリファ(830メートル)よりもはるかに高い絶壁を、命綱なしに登る。ひとつ間違えれば、待っているのは死だけ、というクライミングスタイルがフローソロだ。

ホノルド氏が挑んだのはエル・キャピタンの主要ルートの一つで、地上915メートルに達する「フリーライダー」と言われるコースだ。最後の緩やかなピッチはほとんど駆けるようにして登り切り、わずかに雲の浮かぶ青空の下、午前9時28分に頂上に到達した。全行程にかかった時間は3時間56分だった。

エル・キャピタンの頂上でチョークだらけの手を見つめるホノルド氏(PHOTOGRAPH BY JIMMY CHIN)

挑戦に先立って、ホノルド氏は1年以上かけて米国、中国、ヨーロッパ、モロッコなど各地で訓練を重ねてきた。彼の計画を知っていたのはわずかな友人と仲間のクライマーのみで、決して他には口外しないことを誓っていた。

Lauren C. Tierney, NG STAFF; Charles Preppernau Locator Map Art: Clay Wadman SOURCES: Mark SynNott; Antoine Guerin, Battista Matasci, Michel Jaboyedoff, and Marc-Henri Derron, University of Lausanne.

ナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリー映画を制作するため、ホノルド氏の長年のクライミングパートナーであるジミー・チン氏らの率いる撮影チームが、ホノルド氏の挑戦をカメラで追った。ホノルド氏は、2016年11月にもフリーソロで初挑戦を試みたが、1時間も経たないうちに、コンディションが好ましくないとして断念していた。

エル・キャピタンの頂上を目指すルートは数通りあるが、ホノルド氏が選んだ「フリーライダー」ルートは30の区間(ピッチと呼ばれる)に分かれ、その困難さはロープを使用して完登しただけで十分ニュースになる。ベテランのクライマーでも登はんに2日以上かかるのが普通だ。

岩肌にクモの巣が張り巡らされたような大小の裂け目をたどって曲がりくねったコースが続く。ホノルド氏は狭い岩の間に体をねじ込ませ、マッチ箱ほどの幅しかない岩棚の上をつま先立ちで歩き、時には指先だけで岩にぶら下がることもあった。

このコースでは、クライマーの持つほぼ全ての肉体能力が試される。指、前腕、つま先、腹の力、そして柔軟性と持久力。太陽や風、突然の豪雨など、環境要因も綿密な計算に入れなければならない。

しかし本当の試練は、地上数百メートルの絶壁で、足を置く場所がわずかにずれただけで死に直結するという状況のなか、複雑な動きをひとつひとつこなしながら、たったひとりで冷静さを保つことができるかどうかであった。他のクライマーたちは、これほどの危険な状況でも落ち着いて分析ができる特殊能力を持つホノルド氏に驚嘆する。20年間のクライマー経験の中で徐々に培ってきた能力だろう。

※ナショナル ジオグラフィック日本版2019年3月号に、この挑戦に密着した特集「体ひとつで巨大な岩を登る」を掲載しています。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2017年6月8日付記事を再構成]

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