100年人生は自在に働き学ぶ リンダ・グラットンさん
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』の著者 リンダ・グラットン氏の特別授業が聖心女子大学で開催されました。人生を「教育・仕事・引退」の3ステージではなく、「マルチ・ステージ」でとらえる考え方は多くの反響を呼びました。ロンドンビジネススクールの教授として初めて仕事と子育てを両立したグラットン氏が、特別授業で語った「長寿時代を自分らしく生きていくためのヒント」をお届けします。
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自分が何歳まで生きるのか、考えたことはありますか? テクノロジーの進化によって平均寿命は年々延びています。この状態が続けば、1997年生まれの人の平均寿命は101~102歳になり、定年は70歳~80歳になる可能性もあるそうです。つまり、祖父母や両親の時代の生き方が、全く通用しなくなるということ。
私たちはこれからどのように働き、何を学び、誰と結婚し、どうやって仕事と家庭を両立すればいいのでしょうか?
平均寿命が「100歳」を超えるとどうなる?
日本では今まで、多くの人が「教育・仕事・引退」という3ステージ型の人生を歩んできました。学校を卒業し、働いて、60歳で定年を迎えて引退、というルートです。でもテクノロジーが進化して平均寿命が100歳まで延びると、60歳で退職した後には40年間の長い年金生活が待っています。財産があれば裕福な暮らしができるかもしれませんが、貧しい老後を余儀なくされる人も多数現れるでしょう。
しかし、グラットン氏は長寿化を悲観していません。むしろ、「3ステージ型の人生」に縛られず、柔軟に生きながら自分に合った職業で収入を得られるようになると話します。例えば、仕事を長期間中断したり、転職を重ねたり。生涯を通じてさまざまなキャリアを経験すれば、もっと自由に、もっと自分らしい生き方を選ぶことができるようになるからです。そんなマルチステージの人生を実践するために、グラットン氏は生涯教育が欠かせないと考えています。
「今までは教育が若い世代に集中していましたが、今後は40代、50代、60代と、生涯を通じて学び続ける人が増えるでしょう。実際、私が教えているロンドンビジネススクールには約10人の日本人女性が留学しています。YouTubeなどを使ったオンライン教育もますます発展し、5年後には世界全体で教育の仕組みが変わっていくと予想しています」
シンガポールでは、あらゆる国民が政府の支援を受けて生涯学習ができる制度が整いつつあるそうです。日本でも安倍政権が「人生100年時代構想会議」を設置し、アドバイザーにグラットン氏が就任。教育機関の対象をすべての年齢にするなど、さまざまな提案がされています。
とはいえ、教育制度の改定には時間がかかるもの。まずは自分で学びたい分野を探すところから始めてみるといいかもしれません。しかし、どうすれば自分に合ったジャンルが見つかるのでしょうか?
世界を知り、自分を見つける「旅」をしよう
日本では、大勢の学生が在学中に就職活動を行い、短期間で一斉に内定を得ています。その結果、本当にやりたい仕事とは別の職業に就いてしまうこともしばしば。このような状況に陥らないためにも、グラットン氏は「旅」が必要だと話します。実際にグラットン氏は、学生時代にロンドンからヨルダンへ渡り、シリア、イスラエル、インドを回ったそうです。
「旅をすれば、自分がどのような人間なのか、世界がどのような仕組みで動いているのか、人生がどのように展開するのかを自分の目で見て、理解することができます。また人工知能(AI)などテクノロジーの進歩によって、世界中で新しい仕事が生まれているのを目の当たりにすることもあるでしょう。世界にどのような仕事があるのかを知れば、選択肢も広がります」
また、旅先では他国のマーケットを見ることも可能です。日本人は健康的な生活習慣やテクノロジーの開発に優れている一方、その知識や技術を国内のマーケットにとどめがち。起業して海外へ広めようとする人も少ないため、グラットン氏は「有益な情報が国内に埋もれている」と感じることも多々あるそうです。
「海外の有名大学には、大企業への就職を目指すのではなく在学中に起業する学生が大勢います。欧米諸国に比べるとまだまだ移民が少なく、出生率の低い日本では、『旅行や起業をしていたら就職先がなくなってしまう』という心配もほとんど必要ないでしょう。旅をして世界の動向を知り、他国のマーケットを視野に入れてビジネスを立ち上げてみましょう。その経験は、人生100年時代を生き抜く糧になると思います」
結婚に向いているのは「◯◯◯を見てくれる男性」
100年時代を迎えるに当たり不安に感じるのは、仕事だけではありません。結婚や子育てなど、プライベートも懸念事項の一つ。特に、人生を共に過ごすパートナー選びはますます重要になりそうです。グラットン氏の講演は、結婚にまで及びました。
結婚・出産・離婚・再婚を経験し、ロンドンビジネススクールの教授として初めて仕事と子育てを両立したグラットン氏は、「子どもの世話をしてくれるかどうか」がパートナー選びのポイントだと話しました。
「今までは妻が家を守り、夫が一人で家族を養っていくスタイルが一般的でしたが、そのような人生は男性にとっても負担が大きかったはず。世の中には、『子どもの世話をしたい』と思っている男性もいます。しっかりと子どもを見てくれる男性をパートナーに選べば、夫婦で支え合いながら共にマルチステージの人生を歩むことができるでしょう」
とはいえ、まだ成功者の少ないマルチステージ型の人生を選び、進んでいくのは不安なもの。自分を育ててくれた両親に反対される可能性もあります。そんなときはどうすればいいのでしょうか?
「親が子どもを心配するのは当然のこと。しかし、時代は変わりました。親の世代と同じ3ステージ型の人生を歩めば、将来行き詰まってしまいます。まずはきちんと話をすることから始めましょう。夫に対しても同様です。どのような未来を理想とするのか、話し合わなければ同じゴールを目指すことはできません。皆さんはパイオニアです。『人生100年時代を生きる自分たちこそ革命を起こす世代だ』という意識を持って、新しい未来を切り開いてください」
※リンダ・グラットン特別授業は2018年12月7日に聖心女子大学ブリット記念ホールで開催された。
(取材・文 華井由利奈、写真 小野さやか)
[日経doors2019年2月25日付の掲載記事を基に再構成]
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