元「ほぼ日」篠田真貴子CFO、攻めの50代にワクワク
昨年、「ほぼ日」の最高財務責任者(CFO)を退任した篠田真貴子さん。ちょうど50歳だ。退任後1カ月もたたない頃、篠田さんにお会いした。きっと次のステージへの準備が着々と進んでいるんだろうなと思いきや、「今、ジョブレスなの!」とすがすがしい笑顔で無職を楽しんでいる。篠田さん、これから10年、どんな地図を描いているのですか?
50歳で無職 これから何をやるんですか?
―― 2018年11月、10年勤めたほぼ日のCFOを退任しました。「50歳」という節目の決断に、同年代の働く女性たちの関心も集まっています。
篠田真貴子さん(以下、敬称略) 結果的に、「10年」「50歳」という区切りになりましたが、もともとそういう予定で考えていたわけでは全くないんです。縁あってほぼ日という会社でお役目をいただいて気付けば10年。その間、上場という大仕事にも立ち会うことができてとても濃く充実した40代を過ごしたのですが、ふと気付いたら「あれ、私、やり切ったかも」と思ったんです。
自分でもビックリしちゃって、正直、戸惑いました。「そういうことでいいのかな?」って3カ月くらい一人で熟考して、確信を持てた段階で(ほぼ日社長の)糸井重里さんと話をしたという流れでした。まさに「卒業」という表現がしっくりくるような感覚ですね。
―― その時点で、「次」についてはどのように計画を?
篠田 それが全くノープラン。
卒業といっても引き継ぎの仕事は簡単ではなくて、これにしっかり集中することが最後の仕事だと思っていたんですね。だから、次のことはあえて考えないでいようと決めていました。
ありがたいことに、退任のニュースを知って声を掛けてくださる方々はいらっしゃったのですが、全部、「在任中は一切考えられないので、辞めてからお会いしましょう」とお伝えして。
私、これまで5社ほど経験していますが、「次を決めないまま辞める」なんて初めて(笑)。
インタビューを受けている今(18年12月半ば)は、退任してちょうど3週間ほどたったくらいですが、まだ次は決めていません。一つの会社の所属を離れて、「ただの篠田真貴子」に立ち戻ったときに、何を感じ、何を志向するのか。いっぺん、まっさらな「更地」になってから、次を考えたいなと思ったんです。
前職の延長線上ではなく、バイアスなしのフラットな場所から、次の行き先を見つけたかった。若い頃の転職では、「一刻でも早く、自分を評価してくれるところに」あるいは「足りないスキルを身に付けられるところに」と急いで次を探していましたけれど、今は全く新しい境地にいます。
見晴らしがいい場所を選びたい
―― SNS(交流サイト)でも「ジョブレスです!」と明るく公言し、「無職」の生活を新鮮に楽しんでいる様子が伝わってきます。毎日のように人に会い、お忙しいのだとか?
篠田 そうなんです。辞めたら家にいる時間が増えるのかと思っていたら逆(笑)。「ほぼ日の」という冠が取れた途端に私に価値を見いださなくなる方もいらっしゃると思いますが、そうではなく面白がって会う約束をしてくださる方も思った以上にいらっしゃったのがうれしいですね。懐かしい再会もあれば、新しい出会いも。
今の私はどこにも属さず「ノー利害」な身分なので、誰とでも率直な話ができるし、「実は、私もこういう決断をしたことがあってね」と経験談を教えてくださる方もいて。そういうお互いの生き方に触れ合うような深い対話を大切な人たちとできる日々を、今とても楽しんでいます。
もっぱら夫からは「会社辞めたら家にいる時間が長くなるから部屋が片付くと思う! って、言ってなかった?」なんて鋭く突っ込まれていますけど(笑)。
―― まだ思索中ということですが、次を決めるための基準は設けていますか?
篠田 いろんな可能性を広げたいのであまり決めていないのですが、「やったことある」とか「できそうだな」と思う領域は多分選ばない気がします。
ただ一つ、指針とも言えるのが、30代の頃、投資家の梅田望夫さんの著書で出合った言葉、「迷ったら見晴らしがいい場所を選びなさい」。見晴らしがいい場所――つまり、既に誰かが作り上げた完成物があまりないような、これからどうなるか分からないような場所。そのほうが未来を自分の手でつくれるのだから面白いぞと。
50代でやっと「アウトプットが上回る」
―― 40代以降は「守り」に入りたくなる人も少なくない中で、篠田さんは「攻め」の姿勢で、しかも、面白がっていますよね。キャリアを中長期に捉えたときに、50代をどう位置付けているのでしょうか?
篠田 50代はアウトプットの時期だと思います。これは昔の職場の先輩がおっしゃっていたことなのですが、20代・30代は周囲から学ぶことが圧倒的に多いインプット期。40代でようやくトントンでアウトプットもできるようになり、50代になって初めて周りのお役に立てるアウトプットのほうが上回る。
もちろん、インプットは生涯続くわけですが、50歳になった今、私もようやくアウトプットのステージに立てた。自分自身を見渡して「今の世の中で、篠田真貴子をどう動かしたら面白くなるだろうね?」と、ワクワクしながら考えています。
1968年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年10月にほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)に入社。取締役CFOを務める。2018年11月に退任し、次のステージを模索中。家族は夫と長男(中3)、長女(小5)。趣味は料理。
(取材・文 宮本恵理子、写真 洞澤佐智子)
[日経ARIA2019年2月18日付の掲載記事を基に再構成]
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