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クルマ離れ20代が購入 シボレーカマロ人気の理由

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NIKKEI STYLE

「若者のクルマ離れ」という言葉が当たり前のように使われる中、10~20代の購入者が3割をしめる輸入車がある。シボレーカマロだ。決して安価なモデルではないのに、なぜ若者に支持されるのか。そこにはある大ヒット映画シリーズの影響があるという。自動車評論家の渡辺敏史氏が解説する。

◇  ◇  ◇

カマロは米ゼネラル・モーターズ(GM)において中核となるシボレーブランドの販売する2ドアクーペです。生産工場はミシガン州のランシング・グランドリバーと、デトロイトの本社とは至近。そして同工場ではキャデラックなどの後輪駆動モデルも生産しているとあらば、「アメ車の中のアメ車」と称しても過言ではないでしょう。

僕の手元には18年に日本で販売されたカマロの購入者年齢分布というデータがあるわけですが、うち、世代別トップの28%を占めているのがなんと20代! 10代(!!)と合わせるとポッキリ30%。ざっくりですが、日本で正規販売されているカマロの約3台に1台は10~20代が買っているということになるんです。ちなみにカマロは税込み529万2000円から。この現象の主因はお財布関係ではなさそうです。

告知はSNS、イベントは渋谷キャストで

「いやぁ、我々も統計が出てきた時はちょっと驚いたんですけど、販売店からのフィードバックで、若いお客様に興味をもっていただいているという感触はちょっぴりあったんですよ」

そう話すのはGMジャパンでマーケティングを担当する安部麻甲さんです。

「我々としては、カマロとのタッチポイントを広げるために、ともあれモノを見て触って乗っていただくという機会づくりを進めてきました。その一環として、よくある話なんですが、試乗記念プレゼントみたいなところをちょっぴり充実させようかということで、カマロ印の入った傘をノベルティーとして作りまして、試乗いただいたご来場者にお配りしたんですね」

このカマロ傘キャンペーンは予算の都合もあって、主にSNSの公式アカウントを使って告知したそうですが、するとディーラーでの試乗希望は通常時の軽く30倍以上と大好評。おかげで傘は再発注する羽目に。実は安部さんも、ここまで反応が良好だとは思ってもみなかったそうです。これに味を占めて次に繰り出したのはカマロ印の入った「ロンT」、つまり長袖Tシャツをノベルティーとした試乗キャンペーンです。こちらもあっという間に底をつくほどの人気を博したといいます。

「そこで来場者の傾向調査をしてみると、2つの興味深い特徴が浮かび上がりました。1つは試乗後も販売店からのコンタクトがOKだというお客様が通常よりもかなり多かったこと。そしてもう1つがお客様の年齢層の若さです」

ちなみにこれらのキャンペーンを利用して試乗した人のうち、36%が20代とのこと。これ、日本車のディーラーではとても考えられない数字だと思います。そして彼らは当然SNSも使いこなしていますから、カマロの試乗の様子も拡散していたのでしょう。

「昨秋にマイナーチェンジモデルの発表を行ったんですが、この際には若い方々のアクセスやSNSでの広まりやすさみたいなところも意識して、渋谷キャストを会場としました。ウケは本当に悪くなかったですね。ちょっと驚いたのは若い女の子もいっぱい集まってくれまして。カマロ女子なんてハッシュタグがSNS上にあることも知りました」

その話を聞くに、通りすがりに目がついたインスタ映えの派手なクルマにキャッキャ言ってるという図式とはちょっと異なる気もします。

映画を楽しんだ子どもがドライバーに

果たしてカマロはなぜこれほど若者ウケがいいのでしょうか。

「一番大きいのは映画でしょうね。『トランスフォーマー』や『ワイルドスピード』で知って憧れたという方はとても多いようです」

登場人物の愛車がロボットに変身して敵と戦う「トランスフォーマー」。劇中でカマロは「バンブルビー」という変身キャラとしてスクリーンで大活躍していました(編集部注 2019年公開の新作「バンブルビー 『トランスフォーマー』はじまりの物語」ではフォルクスワーゲン・ビートルが変身する)。対して「ワイルドスピード」ではカマロは端役としてチョロっと登場する程度ですが、安部さんいわく「うまいことイメージに便乗できているのかもしれませんねフフフ」とのこと。これら映画の上映はいずれも00年代半ばと10年以上はたっています(「トランスフォーマー」シリーズ第1作の公開は07年)。歳を重ねると10年前なんて昨日一昨日のことのように思えますが、あの頃チビッコだった若者も今では立派にクルマ適齢期です。

V8より直4、ナビはスマホ派

「あとは西海岸イメージに重なるところもあるようです。従来のアメリカとはちょっと違うカルチャーといいますか、たとえばファッションブランドの『Ron Herman』(ロンハーマン)みたいなライフスタイルブランドのイメージとシンクロしてみていただけているようですね」

カッコよさに一目ぼれするパターンや、中には「カワイイ」とおっしゃる女子もいらっしゃるなど、ユーザーの嗜好はやはりカタチに引かれるところが多いようです。カマロの搭載エンジンは2リッターの直4ターボと6.2リッターのOHV・V8の2種類があります。オジサン的には「アメ車なんだから当然V8だろう」と思うところですが、見た目的にはほとんど変わりませんから、今の若いユーザーさんはほとんどが2リッターモデルを選び、0.9%ローンなどを使って手堅く買われているそうです。

「興味深いのはご購入の後で、カマロのことをもっと知ろうと一生懸命情報収集されている方が多いんです。例えばモデルの歴史やグレードの由来であるとか、フォードさんのマスタングとはどう違うのかとか、そういうことを熱心に調べたりしていらっしゃる。その没入ぶりは我々インポーター側にとっても相当意外なことでした。それもあって、今はSNSを通じてのカマロにまつわる新情報の先出しなど、鮮度と価値を意識した発信を心がけています」

聞けば若きカマロオーナーはクルマとの付き合い方も進んでいて、手持ちのスマートフォンとの連携を最優先しているから、日本仕様のナビに対するニーズが低いといいます。すなわちアップルの「CarPlay」やグーグルの「Android Auto」に対応していれば不自由は感じないと。もちろんカマロはGAFAの本拠(米国)のクルマゆえ、ITとの親和性は日本車よりも全然高いわけです。この辺りも日本のメーカーが捉える日本のユーザーの特性とはかなりのズレがあると感じられます。

こういう現象の裏側を聞いてみるにつれ思うのは、若者のなんちゃら離れというのは今日び売り手側に都合のいい言い訳にしかなっていないのではないかということです。絶対に欲しいと思わせる品物のヒントとは、緻密なマーケティングや必死の価格設定とは一線を画したところにもたくさん転がっているのかもしれませんね。

渡辺敏史
 福岡県出身。出版社で二・四輪誌編集に携わった後、フリーの自動車ライターに。主な著書に、2005~13年まで週刊文春に連載した内容をまとめた「カーなべ」(上下巻、カーグラフィック)。

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