暗記に命かけるスパイが直伝 ストーリー記憶法の威力『KGBスパイ式記憶術』

人によって記憶の容量が決まっていると思うなかれ。引き出し方さえ身につけられれば、本来は際限なく記憶できる。その多様な手法を授けてくれるのが本書『KGBスパイ式記憶術』(岡本麻左子訳)。スパイにとって記憶力の良さは命綱だ。本書には旧ソ連の国家保安委員会(KGB)で習得される記憶術の神髄が披露されており、ロシアでベストセラーとなった。

先人たちも実践していた合理的な記憶の引き出し方

記憶術には3原則ある。「関連付ける、情報を視覚的にイメージする、感情を伴わせる」。特に関連付けは、本書で紹介されている記憶術の重要な手法の一つとなっている。「記憶力の良さというのは、覚えているかどうかよりも情報を呼び出せるかどうか」だ。

古代の文書(叙事詩、伝説、科学的論文など)に詩の形式で書かれたものが多いのは、韻律、繰り返しなどを用いて単語を関連付け、膨大な文書を記憶しやすいものにするためだったという。それもそのはず、先人たちの手元には、私たちのように記憶をデータベース化する装置は無かったのだから。

代表的な技術として、ストーリー記憶法を紹介しよう。これは、覚えたい複数の単語や数字をつなぎ合わせてストーリーをつくり、視覚的に思い描き、そこに感情を注ぎ込む方法だ。

具体的かつ視覚的なイメージが大切

数字を覚えるのは難しい。抽象的で、単語や名前ほど具体的な実体がないからである。そこで、数字の形に似た物を思い浮かべ、視覚的イメージに変換してみる。0ならボール、帽子。1なら羽、ロウソク。2は白鳥、というように。数字の覚え方の規則は、自分にとって具体的で、視覚的イメージがわけば良い。「120-1580」という電話番号を覚えるために、次のようなストーリーを想像する。

ゆっくりと風に舞う1本の羽(1)。落とし主は空を飛ぶ白鳥(2)だ。黒い帽子(0)を被った白鳥は、火のついたロウソク(1)を片足に持っている……。

「顔と名前を記憶する」ことについても、有効な記憶術がある。相手の特徴的な容姿と名前を結びつけたストーリーをつくり、感情を伴わせるのだ。他の人と違う特徴、好感を持てるかどうか、その理由を視覚的にイメージするのだ。額が大きく、チェスが好きな人に出会ったら、広い額にチェス盤の模様が塗られているところを想像するといった具合だ。

4月は新たに多くのことを覚えなくてはならないタイミングだ。異動があれば、新たなメンバーを覚える必要がある。記憶力の衰えを感じる人には、本書を通じて、自信を持ち直していただき、新しい事に取り組んでほしい。

今回の評者=窪田美怜
人と組織に関するソリューションプランナーとして活動する傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームにも参加。大阪府出身。青山学院大卒。

KGBスパイ式記憶術

著者 : デニス・ブーキン、カミール・グーリーイェヴ
出版 : 水王舎
価格 : 1,728円 (税込み)

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