自分の成長、カギは快適ゾーンからの脱出 岩田ヘレン
どうしたら自分はもっと成長できるのか? いつもネガティブに考えてしまうのはなぜ? いつも忙しい。どうしたらもっとゆとりを持てるのか? 働く女性のこんな疑問に、企業研修のほか、オンラインで日本や海外のビジネスパーソンをサポートしているコミュニケーションコーチ、岩田ヘレンさんがじっくり答えます。
快適な領域から一歩踏み出すのが成長への道!
今この記事を読んでいるあなたにとって、どうすれば自分がもっと成長していけるのかは、とても重要なテーマですよね?
そこでお話ししたいのは、誰もが持っている「comfort zone(快適ゾーン)」と、自己成長との関係についてです。
「快適ゾーン」とは、自分が安心していられる領域のことです。いつもしていること、いつも行っている場所、いつも会っている人、いつも食べているもの……。その領域にいる限り安心していられますが、自分が「大きく成長した!」と感じることはあまりありません。
私は以前、マッキンゼー・アンド・カンパニーという経営コンサルティング会社の日本支社に勤めていました。マッキンゼーに入社した当初、周囲はピカピカの経歴を持つ素晴らしい外国人と日本人ばかり! 会議では気後れするし、間違ったことを言ってしまうのが怖くて、発言などなかなかできませんでした。でも、それではいけないということは分かっていました。
会議で発言しなくては評価されないし、何よりも意見を出さなければチームに貢献できません。そこで、まずは少人数の会議の席で、勇気を奮って発言してみたのです。その結果は……大丈夫でした! 何ともありませんでした。
そこで次は、もう少し人数の多い会議で意見を言ってみました。これも全く問題ありませんでした。少しずつ大きな場で発言ができるようになり、ついには社員全員が参加する大きな会議(大手外資系企業では「Townhall」と呼んでいる会議です)で、上司が「ヘレンも絶対何か言うだろうから、どうぞ」と私にマイクを渡してくれたのです。最初の状態と比べると、ものすごい違いですよね。「快適ゾーン」から一歩ずつ踏み出してみることを続けたら、確実に大きく成長したのです。
新しいことに緊張するのは、脳の仕組みのせい
これまでやったことのない領域に一歩踏み出そうとすると、心臓がドキドキしたり、頭がボーッとしたり汗が出たりします。これはなぜだと思いますか?
人間の脳は、常に将来が予測できる状態を好み、変化を好まないのです。これは危険を避け、安全を求めるという脳の本質からきています。何か新しい状況になって予測がつかなくなると、起こり得る危険に対して全身で対応しようとします。全身が危険に備えて身構えているのが緊張状態です。
これは原始時代の名残りともいわれています。現代では、日常生活で突然猛獣に襲われるようなことはまずありませんが、脳は原始時代からそれほど変わっていないのです。
以前の会議では何も発言しなくても無事に終わった。もし今の会議で発言したら、何が起こるか分からないのです。快適ゾーンから出てみようとするときに緊張するのはごく自然なことなのです。
私は最近も、快適ゾーンを広げて成長するためのチャレンジを続けています。世界的なコーチであるジム・フォーティンに指導を受けていますが、つい最近、ジムがくれた「宿題」で新たな経験をしました。
宿題はいろいろありますが、そのうちの一つを紹介しましょう。それはなんと、「町で出会った全く知らない人とハグをすること」!
これは最初、かなり緊張しました。私はハグするのは大好きですし、実際、何人かのクライアントの日本人女性も日本式のあいさつではなくハグをしてくれます。でもこの時は、ハグできる相手を探しながら1時間以上も「ああ、この人は無理、この人も無理……」とうろうろ歩き回っていました。そのうち帰宅して夕飯を準備する時間になり、早く「宿題」を終わらせたい! と思ったところに、向こうから女性の二人連れが歩いてきたので、思い切って声を掛けました。
「すみません。ちょっと変なことを聞いてもいいですか? いま、『初めて会った人とハグをする』という課題にチャレンジしているので、協力していただけませんか」と頼んでみました。断られるのではとドキドキしましたが、女性二人は「面白い課題ですね」と笑い、快くハグをしてくれたのです!
パニックになるほどのチャレンジは逆効果
「ちょっとドキドキ」のチャレンジは、やってみると確実に成長につながります。でも、あまりに難度が高過ぎるチャレンジは、成長につながらないどころか、逆効果になることもありますから注意してください。
私は数年前、夫と娘と一緒にスノーボードに行きました。私はまだ初心者でしたが、コースのてっぺんまで上がった後、夫と娘は私を置いていきなり上級者コースを滑って下りていってしまったのです! そこは初心者の私にとっては恐怖そのもの。スノーボードを外して、歩いて下りるしかありませんでした。
快適ゾーンの一歩外は、ちょっと勇気を出せば学びが得られる「学習ゾーン」です。でもさらにその外側になると、レベルが違い過ぎて恐怖しかもたらさない「恐怖ゾーン」になってしまいます。これでは成長どころか、トラウマが残ってしまうかもしれません。
どの程度踏み出したら恐怖ゾーンになるかの見分け方は難しいですが、「パニックになるくらい大変かどうか」を目安にしてはどうでしょうか。
さて、皆さんもぜひ自分に合ったやり方で、快適ゾーンから一歩出る経験をしてみてください。セルフエクササイズとして次の5つを用意しました。好きなものを選んでチャレンジしてみてください。
1. 普段あまり発言しない会議で、意見を言う。
2. 本当はやりたくないのに我慢していることに「No」を言ってみる。例えば、仕事中によく「お茶しに行こうよ」と誘ってくる同僚がいて、気が向かなくてもいつも行っているなら、次回は「ありがとう、でも今ちょっと手が離せなくて」と断ってみる。
3. 大勢の人が順番に何かをするようなとき、一番乗りでやってみる。例えば会社の研修で「誰かやってみたい人いますか?」と聞かれたら真っ先に手を挙げる。
4. このコラムを読んで感じた疑問や意見を、メールでヘレン宛てに送る。
5. もし、上の1から4が自分にとって簡単過ぎると思ったら、快適ゾーンから出るためのエクササイズをぜひ、自分で決めてやってみてください。
実際に試してみた結果も、ぜひ聞かせてくださいね。
さすがコミュニケーションズ代表取締役。英国出身。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社などを経て2013年、さすがコミュニケーションズを設立。グローバル・ビジネスを想定した企業向けコミュニケーション・スキル研修などを実施。著書に「英語の仕事術 グローバル・ビジネスのコミュニケーション」(小学館)。Sasuga! Podcastも配信中。helen◎sasugacommunications.com (◎のところを@に変更)
[日経doors2019年2月25日付の掲載記事を基に再構成]
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