春トレンチ着こなし術 自在コーデで仕事に品格
宮田理江のおしゃれレッスン
冬が過ぎても、トレンチコートの出番は続きます。「花冷え」という言葉がある通り、春先は意外に冷え込みがち。この時期に頼もしい春トレンチは、仕事ルックにも普段着コーディネートにも重宝します。上手なスタイリングを手に入れて、オールマイティーに着回していきましょう。
ワイドパンツ姿がすっきり
ここ数年で女性のワードローブにしっかり居場所を確保した感じのあるワイドパンツ。メンズライクな風情は、もともと軍装に由来するトレンチになじみます。ワイドパンツの上からトレンチを重ねれば、通勤コーデがりりしいトーンですっきり決まります。
1851年に創業した「Aquascutum(アクアスキュータム)」は英国を代表する老舗ブランドのひとつ。マーガレット・サッチャー元首相が顧客だったことでも有名です。トレンチコートの原型とも呼べそうな防水コートを早くから手がけ、ヒラリーのエベレスト登頂でも登山隊が同社のコートで寒さをしのぎました。
正統派のトレンチだからこそ、自在の着こなしが試せます。たとえば、あえてボタンを留めずに、ゆるく打ち合わせて、ベルトでキュッと締めると、ウエスト周りに自然なしわが生まれ、細感を印象づけられます。妙に気負った見え具合を避けやすい点でも、取り入れる価値のあるアレンジです。
前を開けて、しかもベルトをはずしてしまうという着方は、トレンチ特有のきまじめ感をやわらげてくれそう。内側に着たトップスをのぞかせて、ジャケット風にまとうと、春らしい軽やかさを漂わせる効果があります。
ワンピース、スカート姿に落ち着きムード
トレンチにはもともとマスキュリン(男性的)な印象があるから、たおやかな表情のワンピースやスカートと組み合わせると、全体がこなれて映ります。オーソドックスなトレンチを選べば、仕事ルックにも品格が備わります。着こなしのポイントは、コートの裾からワンピースやスカートの裾がのぞく着丈のトレンチを重ねるところです。
単独で着ると、フェミニンに見えすぎるときもあるワンピースも、トレンチを重ねると、落ち着いたムードが加わり、通勤コーデに取り入れやすくなります。きちんと感を強めるには、ダブルブレストのボタンをきっちり留めて、ベルトでウエストマークして。
ヒップにかかる程度の短め丈トレンチを選べば、ジャケット感覚で着られます。ジャストサイズよりも一回り大きい「オーバーシルエット」は、ゆったりした量感のおかげで、朗らかな着映えに。
コートにトラッド風味がある分、スカートの色や柄で遊ぶ余地が生まれます。春から先はビビッドカラーで元気なムードをもたらすコーデも選択肢に。ソックスとマニッシュ靴でトラッド感を濃くすれば、オフィスになじみやすくなります。
軽快なパンツルックをオフィス仕様に
見た目にキビキビした印象を与えてくれる、くるぶし丈のアンクルパンツは実際に足さばきが楽で、オフィスでも重宝するアイテムです。短め丈トレンチはパンツと好相性。アクティブな雰囲気に整えてくれます。
シングルブレストのタイプは、重たく見えないので、春からのパンツルックにぴったり。前を開けて、ベルトをオフする着方なら、さらに軽快な着姿に仕上がります。ウオーターカラーのような、涼しげな色のシャツで合わせて、さわやかなムードをプラス。足元にスニーカーを迎えれば、オフの日ルックにも着回せます。
ダブルブレストのトレンチでも、前を閉じないジャケットライクな着方を生かせます。ゆったりした打ち合わせが休日ルックにも程よい落ち着きを宿します。カジュアルなジーンズ(デニムパンツ)も、トレンチのおかげで、節度を感じさせるたたずまいに整います。
甘めスカートにトラッド感をミックス
ロマンチックな見え具合のスカートに引き合わせて、たおやかさをトーンダウンするコーデは、手持ちスカートの出番を増やしてくれます。トレンチならではのマニッシュ感が加わり、性別にとらわれないテイストミックスが可能に。花柄や赤系カラーなど、フェミニン濃度が高めのアイテムにも応用が利きます。
近頃はカジュアルフライデーのような、仕事ルックのルールを緩める取り組みが広がっています。「トレンチ×スカート」のコンビネーションは、このようなシチュエーションにも生かしやすそう。仕事が終わってからのお出かけには、ヒール靴に履き替えればドレッシーにシフトできます。
アクアスキュータムはラテン語の造語で「水の盾」という意味のブランド名でも分かる通り、水を弾く機能の高さで知られています。近年は天気の不安定さが増して、急な風雨に見舞われることも増えてきました。はっ水クオリティーの高いトレンチコートは、「春の嵐」と呼ばれるような不意の悪天候への備えとしても心強い存在になってくれるはずです。
(画像協力)アクアスキュータム https://aquascutum.jp/
ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートからトレンド情報、スタイリング指南などを発信。バイヤー、プレスなど業界経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした解説が好評。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。 著書に「おしゃれの近道」「もっとおしゃれの近道」(ともに、学研パブリッシング)がある。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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