ナショジオ

動画

標高差累計8000メートル ウルトラマラソンの過酷

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/15

ナショナルジオグラフィック日本版

暗闇の中、ひたすら岩山を登り続けるランナー。ゴツゴツした石灰岩の細いジグザグ道。横を見れば、めまいを誘うような大きな穴が口を開く――。

ランナーたちが登っているのは中東・オマーンにあるバラル・サイト山だ。山に入って3キロ余り進んだ後、約1.2キロの岩登りが待つ、85マイル(約136キロ)の山岳レース「オマーン・バイ・UTMB」の難所だ。このレースはハジャル山地を縦走する新しいウルトラマラソン(42.195キロを超えるマラソン)で、2018年11月に初開催された。世界で一番過酷なマラソンの部類と主催者も自称するだけあり、登攀(とはん)コースの標高差の累計が8000メートル近くにもなるという苛烈さだ。

「怖くて血が凍りそうだよ」。そう話したランナーは、岩壁にぴったり体を寄せる。引き返したい衝動に駆られるが、下りるのは登るよりもっと恐ろしい。ランナーたちのヘッドライトが次々と岩を照らし出す。節だらけの木が絡みつく崖もある。突然、小道が急坂に変わる。切り立った峡谷の隙間を縫うように進むと、岩だらけの急勾配が目の前に現れる。ランナーたちは懸命によじ登るほかない。

この20年で、ウルトラマラソンは一般の人々にも徐々に認知されつつある。アップダウンの少ない都市部を離れ、山、砂漠、ジャングルなどさまざまな環境をコースにすることで耳目を集めている。レースによっては100マイル(約160キロ)を超えるものもある。また「走ることが可能な」トレイルでは飽き足らず、ランナーたちを「テクニカルな地形」に挑戦させるレースも数多く主催されるようになった。コースは、分別ある人なら注意深く歩くか、そもそも行くのを避けるような地形だ。

「距離がどれだけ長いのか」「どれほど体にこたえる過酷なレースか」を競う「過激なマラソン」が、大きなことをやり遂げたい人、アマチュア冒険家、世界を旅する人たちを魅了している。現在、世界では2万近いウルトラマラソンが開催されており、この数は今世紀初頭に開催された数の100倍以上となっている。

ところで、このレースを主催した「UTMB」は「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン」の略で、アルプスのシャモニーで行われるウルトラマラソンにちなんでいる。しかし、オマーンの乾燥した岩山はアルプス山脈とは全く違う。オマーンのレースに参加したランナーの多くが、オマーンにこれほど険しい山があること自体に驚いていた。あるランナーは「レースのプロモーションビデオを見るまで、オマーンには砂漠しかないと思っていました」と話した。

元英陸軍少将で、30年以上オマーンに暮らすアルバート・ホイットリー氏は「オマーンは『砂漠の中のマンハッタン』など目指していません。9世紀から中国と交易するなど伝統的な海洋国家です。人々は最高。もてなしの心を持ち、とても寛容です」と絶賛する。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年2月10日付記事を再構成]

詳しい記事はこちら

ナショジオ 新着記事

ALL CHANNEL