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救急車は頼れない、重傷者が優先 災害医療の現実

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日経Gooday(グッデイ)

2019年3月11日で東日本大震災から丸8年となる。災害列島といわれる日本では、大規模な地震だけでなく、近年、異常気象やテロなどの危機も増大している。いざというとき、1人でも多くの命を救うためには? 個人は身を守るためにどうしたらよいのか? 冷静なときにこそ考えておきたい災害医療の知識を日本医科大学多摩永山病院救命救急センター医局長の久野将宗さんに聞いた。

災害時、医療はどんな体制がとられるか

もし、今、大地震が起きて自分や周りの人が負傷したら――。「救急車を呼ぼうにも連絡がつかない」「どうしていいか分からず途方にくれる」といった状況に陥る自分を想像したことはあるだろうか。実は災害という特殊な状況下では、限られた医療資源で最大多数の救命・治療を行うべく、平常時とは異なった医療体制がとられている。

被災地で重症患者の受け入れや救命などの中核を担うのは、全国で694カ所(2015年4月時点)が指定されている「災害拠点病院」だ。

細かな体制は地域によって異なるが、例えば東京都の場合、災害拠点病院以外にも「災害拠点連携病院」や「災害医療支援病院」が定められており、それらを含むすべての医療機関が医療救護活動に努める計画になっている。また、災害の発生直後から72時間以内の「超急性期(災害発生から72時間)」には区市町村が「緊急医療救護所」を設置し、ここで主に傷病者の治療・搬送順位を決める「トリアージ」(後述)や軽症者の応急処置などを行う。一方、避難所にも「医療救護所」を設置し、トリアージや避難者の健康相談、診察、服薬指導などの対応を行う。

被災した都道府県が厚生労働省に要請すると、DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Teamの略)が派遣される。DMATは医師や看護師など多職種からなる医療チームで、主に発災直後から超急性期の救命を行う。少し遅れてJMAT(日本医師会災害医療チーム:Japan Medical Association Teamの略)や日本赤十字社の救護班、特定の医療法人や非政府組織(NGO)など様々な機関を母体とする医療チームも多数、被災地に行って活動する。多数のチームが効率よく活動できるための統括・調整役として「災害医療コーディネーター」の任命・育成が全国で進められている。

「発災直後は被災地の医療資源が著しく低下します。それをいち早く補うのがDMATで、時間の経過とともに他の医療救護班に引き継がれます。被災地の医療が通常に戻るまで、切れ目なく医療がスムーズに提供される指揮命令系統と連携が重要です」(久野さん)

こうした枠組みの中で、私たちが知っておきたいポイントを次に紹介する。

一般人が知っておきたい災害医療の心得

【心得1】災害の発生直後、救急車などの公助は頼れない

DMATが派遣されるとはいえ、多数の傷病者が発生する災害発生直後は、公助(DMATや救急車などの公的機関で提供される援助)の対応能力をはるかに超えることが予想される。

「例えば東京都多摩市の人口14万人強に対して救急車は3台しかありません。おそらく、大規模災害時には情報通信手段も途絶えて救急車は呼べないと思うほうがよいでしょう」(久野さん)

公助は当てにできないので、自分の身は自分で守る「自助」が基本。動ける場合は自分の力でなんとか救護所にたどり着くしかない。動けない場合は、大声を出し続けると体力を消耗するので、硬い物で壁をたたいたりして自分の存在を知らせなければならない。備えとしてホイッスルなどを常に携帯しておくとよいそうだ。

【心得2】限られた医療資源で最大多数の命を救うには「トリアージ」が必要

災害現場では、まず「トリアージ」を実施する。トリアージとは、緊急度や重症度によって、医師や看護師、救急隊員らが治療や搬送を行う優先順位を判断することをいう。誰が見ても容易に理解でき、直ちに次の行動に生かせるよう、重症度別に4段階(表1)に色分けし、どの人がどの色かが分かるようなタグを負傷者の手首に付ける。

トリアージという言葉は「選別」を意味するフランス語(trier)に由来し、ナポレオンの時代に戦場で傷病者を区別する際に使われていたものが、災害医療の現場に用いられるようになったといわれている。日本では当初、日本医師会、自衛隊、消防など各機関が独自の形式でタグを作成していたが、現在は標準様式が定められている。

「トリアージは選別ではなく優先順位です。黒色だからといって何もしないのではなく、順位が4番目になると考えます」と久野さんは言う。患者の立場ではどうしても「自分を優先的に診てほしい」「見捨てるのか」という思いを抱きがちだが、限られた医療資源の中で軽症例や、通常の医療を行っても救命の見込みが低い重症例に治療の時間をとられていると、他に救える可能性がある患者がいても救えなくなることもある。最大多数の傷病者に最善を尽くすためには、トリアージが必要不可欠であることを知っておこう。

自分が判定される立場になった場合、可能な状態なら、負傷した状況や今の状態を判定者に伝えるとよい。特に倒壊した家屋や家具などに長時間挟まれていた場合は、後になって「クラッシュ症候群(圧挫症候群)」(挟まれている間にダメージを受けた筋肉の細胞から毒性のある物質が環流し、不整脈を誘発する)を発症することもあるため、できるだけ伝えておきたい。救出された直後は軽症のように見えても、急変して死に至る場合もある。

また、基礎疾患(心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、肝硬変、透析等)のある人や妊娠している人も申告するほうがいい。基礎疾患のある人、妊婦、小児、高齢者、外国人などの災害弱者は、軽症でも必要に応じて待機的治療群(黄色)に分類される。

【心得3】遠方に搬送されることもあり得る

トリアージの結果、ヘリコプターなどで被災地外の医療機関に搬送される(広域医療搬送)可能性があることも知っておきたい。先述のように被災地の医療ニーズが供給量をはるかに超えてしまい、地域内では病床も高度な医療を提供できる医療機関も不足するからだ。

「阪神大震災の時は、初日の広域医療搬送がたった1人でした。もっとできていたら救えた命がいくつもあったのではないかという反省を踏まえて、ドクターヘリによる広域医療搬送システムが見直されてきました」(久野さん)

【心得4】災害時の診療は救護所で

急性期(72時間から1週間)以降、最も身近で医療を提供する拠点となるのは、避難所に設置される「医療救護所」だ。その運用を担う中心となるのは主に地元の開業医ら。診療再開も目指しつつ救護所の対応も行うため、しばらくは、かかりつけ医のクリニックへ行っても休診で、救護所で診療してもらうということも想定される。ただし、地域によって災害時の計画は異なるので、住んでいる地域でどのような計画になっているのか確認しておくとよいだろう。

災害に備えて一人ひとりができること

いざというとき、自分や周囲の人について対処の方法を考える際にも、トリアージの手法が目安になる。つまり、自力で歩ける場合は「軽症」と考えていい。反対に、呼びかけても反応がない、呼吸の異常がある(速い・遅い)、脈拍を感じられない、大量に出血している、といった場合は危険度が高いため、速やかな搬送・治療が必要だ。搬送されるまで、傷病者は横向きに寝かせるのが基本(図1)。また、けがの応急処置として圧迫止血の方法は知っておこう(図2)。

なお、「ターニケット」と呼ばれる止血帯が効果的であることが分かり、医療・消防の現場でも導入が進んでいるという。市販のターニケットを備えておくのも一策だ。

長期化する避難生活の中では、「エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)」(長時間足を動かさないと、血行不良で血が固まりやすくなり、できた血栓が肺の血管に詰まることがある)に注意しよう。特に車中泊を続けるなど体をあまり動かさないでいると、リスクが高まる。

その他、夏場は熱中症やあせもなどの皮膚障害、冬場はインフルエンザやノロウイルスによる胃腸炎などの感染症、低体温症などに注意が必要だ。栄養の偏りによる体調不良や基礎疾患の悪化も招きやすく、メンタルヘルスも含めた継続的な体調管理が重要になる。避難所などでは自分が飲んでいる薬が分からない人も多いという。常用している薬の名称や必要量をしっかり管理し、医療者に伝えられるようにしておくことも備えの一つだ。

「2018年夏の豪雨災害では、酷暑の中、洪水の水が引いた後の片付け作業で、汗をかいたところに砂ボコリをかぶって皮膚が荒れる人が多くいました。残った土砂が乾燥すると舞うので、砂ボコリが目に入って目の障害を訴える人も多く診療しました。災害の種類によって、皮膚科や眼科などの専門的な医療も必要になります」(久野さん)

多くの医療者やボランティアなどが協働する災害医療の現場は、CSCA(表2)のキーワードのもとで管理・運営されるが、この考え方は会社やマンションなど私たちに身近な組織の防災対策にも応用できる。防災担当を決め、会議を開き、避難方法や連絡のフローなど情報共有のルールづくりを行おう。また、家庭や職場、自分がよく行く場所などを想定して、いざというときにとるべき行動をシミュレーションしておくことも大切だ。

いつ起こるか分からない災害に対して、「『自助』の力を高めておくことが最も大事です。そのうえでお隣同士の助け合いである『共助』。救急車やDMATなどの『公助』は最後ですから、当てにしないくらいの心構えで備えておかなければなりません」と久野さんは強調する。

自然災害からテロまで、危機は身近に潜んでいる

ちなみに、災害は地震や津波だけでなく、2018年に発生したような豪雨や洪水、竜巻、など多くの種類がある。自然災害以外に、大規模な交通事故、火災、テロリズムなどの人為災害もあり、自然災害と人為災害が複合したもの(土砂崩れ、海難事故など)もある。

さらに、核(nuclear)・生物(biological)・化学(chemical)兵器によるものは「NBC災害」(特殊災害)と呼ばれる。1995年の地下鉄サリン事件、2013年のボストンマラソン爆発事件といったテロ事件を契機にNBC災害も注目されるようになり、国内外で対策の必要性が高まっている。東京都では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、研修会や必要な物品の確保などが始まっているという。

「必ずしもテロを想定しなくても、例えば化学物質を輸送するトラックが横転事故を起こす、放射線物質を扱う研究室で爆発事故が起きるなどの可能性があります。潜在的なリスクは意外と身近に潜んでいるのです」(久野さん)

NBC災害の場合、目に見えない原因をどのように検知し、取り扱うかや、除染などの知識も必要になる。一方、同じ地震でも、家屋の倒壊や火災が多かった阪神大震災では外傷や熱傷など外科的なニーズが中心だったのに対し、東日本大震災では津波による被害が甚大だったというように、状況次第で求められる対応は異なる。

また、発災直後には外傷が多いが、長期的には避難所の環境やストレスによる体調不良が増えるなど、時間軸でもニーズは変わってくる。どんな場合に何が必要か、まだ起こっていないことに対する「想像力」と「危機意識」をどれだけ高く持てるか。知識と意識を持って災害に備えよう。

(ライター 塚越小枝子)

久野将宗さん
 日本医科大学多摩永山病院救命救急センター医局長・病院講師。1998年日本医科大学卒業。日本医科大学附属病院高度救命救急センター、日本医科大学千葉北総病院、会津中央病院等を経て2002年より日本医科大学多摩永山病院救命救急センターへ。2009年医局長、2011年病院講師。日本救急医学会指導医。東日本大震災(東京都医師会)、常総水害(DMAT)の他、NGO災害人道医療支援会(HuMA)会員として西日本豪雨災害、熊本地震の被災地で災害医療活動を行った。

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