食べておいしい、見て仰天 ハーブの電子顕微鏡写真

日経ナショナル ジオグラフィック社

ラベンダー(Lavandula spp.)は長年、家の中や食べ物、飲み物の香りづけに使われてきた。暖かみのある心地よい香りだ。しかし、ラベンダーを顕微鏡で拡大して見ると、まったく別の印象を受ける。砂漠に生えるサボテンのように表面を覆うトゲ状の毛が、草食動物に食べられるのを防ぎ、内部の水を蒸発から守る(PHOTOGRAPH BY MARTIN OEGGERLI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

「現代のレーウェンフック」のオエゲルリ氏は、香辛料を調味料としてではなく、普通の植物として注目している。例えば、生存競争や子孫を増やす方法に焦点を当てているのだ。

ローズマリーやラベンダー、セージ、バジルの葉の特徴は、ほぼすべて自衛本能に関係している。香辛料として利用される植物には、地中海原産のものが多い。厳しい日射しにさらされ、乾燥した気候の中で進化した植物にとって、葉や茎、種の1つ1つが苦労して手に入れたものであり、断固として守るべきものだ。

ラベンダーの白い毛は、葉を直射日光から守り、貴重な水が蒸発するのを防ぐ役割を果たす。ローズマリーやセージにも同じような毛がある。

だが、バジルは違う。セージやラベンダーと同様、シソ科に属すが、進化したのは乾燥地域ではない。料理に使われるバジルの大半の種は、アフリカやアジアの熱帯の湿潤な地域の原産だ。バジルにとって最大の脅威は、干ばつや暑さではなかった。その結果、バジルの葉は比較的柔らかく、ほとんど毛がない。

サフランは雌しべが異常に長い。そして、雌しべに含まれる化学物質のおかげで、食べ物はなぜか色鮮やかに染まり、風味が増す。

サフランはおそらくこの化学物質のおかげで、動物に食べられるのを防ぎ、赤い色で花粉を運ぶ昆虫を引き付けていたのだろう。わかっているのは、かつて授粉のためにサフランの祖先を訪れていただろう昆虫は、今はもうやってこないということだ。

サフランの栽培化が進むうちに、雄花の生殖能力が失われてしまい、現在、サフランはクローンでの繁殖(球根の分球)に頼っている。昆虫が雌しべに飛んでくることはあるかもしれないが、今では、サフランの雌しべには生物学的な機能はなく、祖先が持っていた生殖能力の記念碑のようなものになっている。

オエゲルリ氏が写真にした植物は、私たちの台所でも確認できる。ローズマリーやセージ、ラベンダーの毛は肉眼で見えるし、舌で感じることもできる。葉をちぎると、「小さな風船」から放出された化学物質の香りを嗅ぐことができる。

台所の棚には、塩やクミン、ゴマなど、ほかにも見るべきものがたくさん並んでいる。世界は依然として未知にあふれているのだ。レーウェンフックが始め、オエゲルリ氏が引き継いだ「見る」という仕事に終わりはないだろう。

次ページでも、オエゲルリ氏の顕微鏡写真を紹介する。食べておいしいということを超えたハーブの別の顔が見えるはずだ。