『PRINCE OF LEGEND』 恋愛映画の定石壊す挑戦
個性豊かな14人の王子たちが"伝説の王子"の座を巡る争いを繰り広げる『PRINCE OF LEGEND』。2018年10月より放映されたドラマでは、"伝説の王子"を目指すきっかけが描かれてきたが、3月21日に公開される映画版では、いよいよ「伝説の王子選手権」が開催され、物語はクライマックスを迎える。
14人の王子のうち、9人は芸能プロダクションLDHの所属。GENERATIONSの片寄涼太と佐野玲於、関口メンディー、劇団EXILEの鈴木伸之と町田啓太、THE RAMPAGEの川村壱馬と吉野北人、藤原樹、長谷川慎が出演する。また、EXILE HIROがエグゼクティブプロデューサーを務める。
LDHと言えば、15年から始まった『HiGH&LOW』シリーズが記憶に新しい。本作は、その『HiGH&LOW』に通じる点が多い。映画とドラマのみならず、ライブやゲームなどへ展開するメディアミックスプロジェクトである点、チームごとにテーマ曲を設定している点などは、『PRINCE OF LEGEND』でも変わらない。
だが、その内容が大きく異なる。派手なアクションシーンを中心に、地区ごとの抗争をミュージックビデオ的な文脈で構築した『HiGH&LOW』から一転、『PRINCE OF LEGEND』で描かれるのは、タイプの異なる様々な王子たちが登場する世界。その世界観は世間一般が抱く、ワイルドで男性的なLDHのイメージからはおよそかけ離れたものだ。
恋愛作品へのアンチテーゼ
近年、映画・ドラマ業界では、少女マンガ原作を実写化した恋愛作品が量産されている。『PRINCE OF LEGEND』も"王子が大渋滞"といったキーワードを掲げるが、原作ものではなく、オリジナル脚本から制作。実は従来の恋愛作品へのアンチテーゼともいえる、実験的な映像作品となっている。
「直球の少女マンガ原作には、制作側も視聴者側も飽きている状況。その中で新しい女性向けコンテンツに挑戦したい意図があった」。そう語るのは、『HiGH&LOW』に続いて本作の企画プロデューサーを務める、日本テレビの植野浩之氏だ。『近キョリ恋愛』や『黒崎くんの言いなりになんてならない』など、少女マンガ原作の実写化に取り組んできた1人でもある。
さらに、マンガ原作の実写化に携わってきたスタッフがそろう。ドラマ版の監督は映画『鈴木先生』などの河合勇人氏。映画版監督の守屋健太郎氏はドラマ・映画『仮面ティーチャー』など、脚本の松田裕子氏は『ごくせん』や『東京タラレバ娘』などを手掛けた。
『PRINCE OF LEGEND』の斬新さとして、3つのポイントが挙げられる。1つ目はストーリー展開を重視せず、キャラクターを動かすことに注力した点。2つ目は、"胸キュン"シーンを過剰に盛るなど、通常の少女マンガ原作とは異なる表現を追求した点。そして3つ目は、女性の共感を狙うのでなく、男性陣の描写を軸に進める点だ。
1つ目のポイントである「キャラクターを動かすことに注力」した点はこうだ。一般的なドラマや映画は、軸となる大きなストーリーを起承転結の構成で展開するのがセオリー。連続ドラマならば、回を重ねていくごとに心情や状況の変化を描く。だが、ドラマ版『PRINCE OF LEGEND』は、異質な作りだった。1話目で、「王子たちが"伝説の王子"の称号を競う物語である」とうたうものの、14人の王子の魅力や個性を紹介する内容がほとんどで、話はなかなか進まない。最終回前の9話でようやく本題の「伝説の王子選手権」という名称が本格的に出た。
「起承転結があると、視聴者はそのストーリーを追うだけで広がりがない。しかし、キャラクターを動かす"キャラクターショー"は、視聴者の自由度が上がり、様々な想像の余地を与えられる。たくさんの登場人物から"推し"を見つけて、自由に想像しながら楽しんでほしいと考えた」(植野氏)
王子の数は「当初は7人程度と考えていた」(松田氏)というがその倍に増え、セレブ王子にヤンキー王子、生徒会長王子、ダンス王子など、キレのあるキャラクターを用意。本作は、いかにキャラクターの魅力を伝えるかが成功の鍵であり、各キャラクターの魅力を強調するため、配役は俳優本来の持ち味も加味して決められた。撮影前には数度にわたるリハーサルが行われ、例えば、当初は「Teamネクスト」に配されていた塩野瑛久が「Team奏」に移動するなどの変更も。理事長秘書を演じる大和孔太も、初めは王子の1人だったという。「王子のイメージやチームのコンビネーションなども考慮し、かなり試行錯誤した」と守屋氏は明かす。
言葉遣いや衣装の違いでも、キャラクターを明確化する工夫を盛り込んだが、最終的には俳優陣がそれぞれの役を各自で深め、時には想定の斜め上を行く演技でさらに膨らませていった。「特に町田(啓太)くんは、私が思い描いたのとは違うトーンで"先生王子"を演じてくれ、すごく面白くしてくれた」(松田氏)。
二次元作品的な演出を採用
撮影・編集の現場で課題となったのは、大きなストーリーの進展がない中で、いかに各話を飽きさせずに進めていくかだった。河合氏は「ドラマでは普通使わない演出を多用することで、インパクトのある画とリズムを作っていった」と語る。例えば、各王子がカメラ目線で名乗りを上げる自己紹介シーンを毎話に入れ、アニメのような効果音やキラキラした光のエフェクトなどの演出も大量投入。「視聴者に面白がってもらい、またツッコんでもらうことも狙いました」(河合氏)。上半身裸でトレーニングする生徒会長の両脇の下を光らせるなど、シュールな演出は狙い通り視聴者に刺さり、SNSなどで大きな話題となった。守屋氏も「映画やドラマを見ることだけで完結しないのが、今の若い人の視聴傾向。リアルタイムの動画配信でも、コメントで画面を汚すことを楽しんでいる。『PRINCE OF LEGEND』もツッコミや応援など参加する要素を意識した表現を目指した」と語る。
一方、映画版では、「伝説の王子選手権で誰が勝つか」「ヒロインを射止めるのは誰か」という明確なゴールがいよいよ描かれ、ドラマ版に比べると、ストーリー性も加味されている。「上映後に、見終わったというカタルシスを感じてもらうため、適度なストーリーは必要と考えた」(植野氏)。
2つ目の作品のポイントは「胸キュンを遊び尽くすこと」。これまで様々な少女マンガ原作の実写版で、"壁ドン"や"顎クイ"などの胸キュン行為はやり尽くされてきた感がある。そこで制作陣は、視聴者にキュンキュンしてもらう効果よりも、シュールな笑いを狙う策として、"壁ドン"などの胸キュン行為をあえて用いることに。
例えば、映画版でついに描かれる「伝説の王子選手権」では、"壁ドン"や"お姫様抱っこ"などが、王子らしさを競う競技の項目に。さらに、その「伝説の王子選手権」には斬新だが現代らしいゲーム的な設定が採られている。
ヒロインの心情を描かない
これまでの胸キュン的作品と大きく異なるのが、3つ目のポイントである「ヒロインの心情よりも男の子の心情を描いた点」だ。従来の作品の多くは、複数の男の子たちの間で揺れ動くヒロインの心情を軸に描かれてきた。しかし、『PRINCE OF LEGEND』ではヒロインの気持ちがほとんど描かれない。
「ヒロインが立つと、彼女に共感できない視聴者がまず脱落する。そもそも複数の男の子に思いを寄せられる同性の存在は、あまり面白いものではない。極論を言えば、『ヒロイン不在、ヒロインは視聴者自身』としてもいいくらいですが、ゲームならともかく、実写ドラマでは現実的でない。そこで極力、ヒロインの存在が気にならない内容にしました」(植野氏)
ヒロインである果音の描き方には細心の注意が払われた。例えば、王子たちが告白する彼女への思いに、果音は「男の妄想、押し付けないでください!」と女性のリアルな本音を口にし、ピシッとはねつける。「こうした表現も、気が強く見えすぎて同性に嫌われないようにするなど、リハーサルや実際の撮影を通して細かいニュアンスを変更しました」(河合氏)という。
脚本の松田氏も、「当初は『ヒロインがどの王子を選ぶか』を軸に書いていたが、検討を重ねた結果、『王子たちの物語』を明確にすることにシフトした」と語る。結果、恋愛要素は軸ではなく、男の子たちの世界を楽しむようなコンテンツに。朱雀奏に特別な思いを抱く第一側近、父親が異なる兄弟の愛など、キャラクター同士の関係性に様々な要素を盛り込んだ。
これら3つのポイントから読み取れるのは、アニメや女性向けゲームと共通する手法を取り入れている点だ。「今の若い世代は、これまで以上にアニメやゲームの表現に親しんできた世代。SNS動画も含めて、尺の短い映像や展開の速さにも慣れ親しんでいる。彼らのリテラシーに合わせた構成や演出を意識しました」(植野氏)。
3月21日に公開される映画版は、いよいよ集大成。ドラマ版で見せた様々な実験はどんなフィナーレを見せるのか、注目したい。
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2019年3月号の記事を再構成]
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