職人をコンサル、日本の工芸を元気に 中川政七商店中川政七商店(上)

 反響は予想以上に大きかった。コンサル事業の第1号となった波佐見焼という陶磁器を作るマルヒロ(佐賀県)の新ブランドが、人気アパレル店で取り扱われたり、雑誌で特集が組まれるようになったりしたのが大きかった。コンサルを受けたい企業の順番待ちリストができるほどだった。

門外不出のノウハウ、本にして公開

「産地を元気にしたい」と話す千石あや社長

 そこで門外不出としていたコンサル事業のノウハウの公開に踏み切った。16年に「経営とデザインの幸せな関係」(日経BP社)を出版したのだ。「公開してもいいのか」という千石さんの問いに、中川さんはこう答えたという。「本当にこれを実践できる人はそんなにいない。でも一緒にやってくれる人がいるなら、日本の工芸を元気にするといううちのビジョンの実現につながるから、それでいいじゃないか」。

 コンサル事業は1対1のスタイルに加え、16年からはより多くの企業が参加できる講座も開設して、今も続く。こうした取り組みが評価され、同社は15年、優れた競争戦略を実践する企業を表彰する「ポーター賞」を受賞した。

 冒頭で紹介した大日本市には、コンサルティングを受けた企業を中心に、全国の工芸の企業が集まる。展示会ではあるが、その場で注文も受ける。商品の説明はもちろん、価格や納期などをめぐってバイヤーと対等に渡り合うのは、経験の乏しい中小メーカーには大きな試練だ。

 「社長! 注文取れました!」。会場で飛び跳ねるように千石さんに駆け寄ってきたのは、越前和紙の山次製紙所(福井県越前市)の山下寛也さん。数年前までは日本酒のラベルを作る小さな会社だったが、技術を生かした茶筒や名刺入れなどがバイヤーに注目され、今回の展示会の人気投票では1位に輝いた。

 「希望だなあって思うんですよ」。千石さんは山下さんの姿を見て言う。それぞれの産地に優秀な経営者が育ち、産地がしっかり機能すれば、日本の工芸は元気になる。「マルヒロの波佐見焼が注目された長崎県の波佐見の地域は、カフェや雑貨店ができて、泊まりがけで訪れる旅行者も増えてきた」(千石さん)。産地に人が集まり、産地が続いていく。サステナブル(持続可能)な共栄だ。

 社長として300年企業の変革を率いてきた13代中川政七さんは18年、43歳の若さで社長から会長になり、周囲を驚かせた。しかも後任社長の千石あやさんは、中川家の人ではない一社員だ。変わることをいとわない老舗企業は、代替わりでさらに新たなステージへ向かおうとしている。

(ライター 藤原仁美)

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