『十二番目の天使』にちりばめられた言葉(井上芳雄)第39回

日経エンタテインメント!

『十二番目の天使』に出演する井上芳雄、栗山千明、六角精児、木野花、辻萬長

ジョンは40手前という設定なので、今年39歳の僕とほぼ同い年。人生の状況も似たところがあります。だから突然、妻子を亡くした彼の気持ちは想像できるし、分かるところもあります。でも、本当の意味でどんな絶望を感じて、どういうふうに回復の過程を経験するのかは、うわべの想像では追いつかないんじゃないかという気がしています。

そこが今回の役が難しくて、でもやりがいのあるところです。いろんな絶望があるでしょうし、いろんな立ち直り方があると思うから。ずっと泣き暮らすかもしれないし、端からはそれほど悲しそうに見えないかもしれない。自分だったら、と考えるのは一番簡単ですが、完全に僕というわけではなく、ジョンという人間なので。そこのあんばいを稽古の中で手探りしている最中です。「そうだよね、悲しいよね」ということがお客さまに自然に伝わる演じ方ができればいいなと。

人は、人に救われる

やはり人は、人に救われるんですね。自分一人で前に進むことが難しいときもあるけど、周りの人たちの支えで前に進めるんだということを感じます。そして、自分たちに与えられた命の長さを全うするまで、一生懸命生きないといけない。

生きるというのは、つらいことや苦しいことのほうが多いと思います。そのときにどうやって少しでも楽しく、笑いながら過ごせるか。こういう考え方があるよ、こういう人がいたよ、というのを見せるのが、僕たちがやっている演劇や物語だと思うんです。

今回は舞台のつくりも、リアルなものばかりじゃなくて、象徴化されたものも使っています。机があって、椅子があって、ベンチがあって、野球場も出てきます。どこかおとぎ話的な雰囲気もある中で、お客さまが実感を持って、共感して見ていただけるようなお芝居ができたらいいなと思っています。

井上芳雄
1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP社)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第40回は3月16日(土)の予定です。

エンタメ!連載記事一覧
注目記事
エンタメ!連載記事一覧