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大切なのは「人生の質」 生きがい考えて治療を選んだ がんになっても働き続けたい~医師・唐澤久美子さん(下)

日経Gooday

2019/3/31

放射線腫瘍医で2017年に乳がんになった東京女子医科大学教授の唐澤久美子さん

ある日、がんになったら、今まで続けてきた仕事はどうすべきか――。今、がん患者の3人に1人が働く世代(15~64歳)といわれている。しかし、告知された患者が慌てて離職したり、雇用する企業が患者の対応に困惑し、うまく就労支援できなかったりすることが少なくない。自身もがんになったライター・福島恵美が、がんと診断されても希望を持って働き続けるためのヒントを、患者らに聞いていく。

2017年に乳がんになった、東京女子医科大学教授で放射線腫瘍医の唐澤久美子さんに、前編「予定通りがんになった医師 『仕事は辞めなくていい』」ではご自身のがん体験や専門の放射線治療について聞いた。後編ではQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)[注1]を「人生の質」と捉え、治療を選択する考え方を伺った。

■自分の人生にとって何が大切なのかを指標に

――唐澤さんは、ドキュメンタリー映画「がんになる前に知っておくこと」(2019年2月2日からロードショー、全国で順次公開)に対話者の一人として出演され、QOLを「人生の質」と考えて治療を選ぶことの大切さを語っておられます。ご自身ががんになってから、その考えに行き着いたのでしょうか。

QOLを「人生の質」と考えるのは当然のことです。がん患者さんを30年間拝見し、ずっとそう思って生きてきています。自分ががんになって、初めて気付くような医師ではダメですよね。

自分の人生にとって、何が大事なのか。人生の目的や生きがいは、人ぞれぞれです。私は、生存率をただ上げるための治療を一方的に勧めるのではなく、患者さんの考えを聞いて、その人にとって大事なことをどれだけ達成できるかを指標にして、相談の上で治療を組み立てるべきだと思っています。

私の場合は、乳房温存手術の前に、抗がん剤治療をするのが標準治療[注2]でした。しかし、もともと薬に弱い体質で、副作用が強く出て具合が悪くなり入院したので、「廃人のようになって生きるよりも、医師として仕事をし、人の役に立ちたい」と思い、抗がん剤治療を断念しました。

■標準治療はすべての人にベストとは限らない

――標準治療をすることが、必ずしもベストとはいえないケースもあるということですか。

標準治療を行うことは基本です。だから、標準治療をやめなさいと言っているわけではありません。ただ、それがすべての人に最も良い治療とは限らないということです。医師は患者さんの体力や年齢、合併症などの体の状態をみた上で、その方の考えを聞き、社会的な状況などを総合的に判断し、その人にとって最も良い治療を提示すべきだと思います。

同じがんであっても、治療法は一人ひとり違います。患者さんの話(物語)をよく聞き、その人の考えや生活を尊重する医療の取り組み「ナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)」(物語と対話に基づく医療)ができることが、医師には求められるのではないでしょうか。

[注1]治療や療養する患者の肉体的、精神的、社会的、経済的を含む、すべての生活の質を意味する。治療効果だけでなく、自分らしい生活の質が維持できることを目指す考え方

[注2]科学的根拠に基づいた視点で、現在利用できる最良の治療とされ、ある状態の一般的な患者に、使われることが勧められている治療

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