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芸能人が口々に「キツイ」、キツイからこそ効果が出る

中野さんは先日、TBS系「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(2019年2月8日放送)に出演し、この血糖値を下げるエクササイズを実際に指導した。オンエアではあまり放送されなかったが、エクササイズを行った出演者が口々に「キツイ」と言うので驚いたという。「芸能人の方は車での移動も多く、日常的な活動量が減ってしまっていて、少しの運動でも息が上がりやすいのかもしれません」(中野さん)

同じことは芸能人だけでなく、我々にも当てはまる。交通機関が発達し、買い物もインターネットで済ませることができるようになった今、生活のなかで体を動かすことが極端に少なくなっているのだ。

中野ジェームズ修一著『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)

「本にも書きましたが、血糖値を下げるためには、多少は負荷のかかる運動を行う必要があります。簡単で楽ちんな運動では効果が出ないのです。番組を見てエクササイズをやってみた方は、キツいから効果があるんだと思っていただけたらうれしいですね」(中野さん)

血液中の糖をより多く使うためには、筋肉をたくさん動かす必要がある。「自動車で言うならば、筋肉が『エンジン』で、糖が『ガソリン』です。ガソリンをできるだけ多く使うためには、燃費が悪い状態でエンジンを動かせばいいのです」(中野さん)

自動車の燃費は、エンジンの回転数をできるだけ一定に保って走行したほうが良くなる。逆に、道路が混んでいるときに、頻繁に止まったり発進したりを繰り返すと、燃費が悪くなり、多くのガソリンを使ってしまう。

「血糖値を下げるエクササイズでは、いろいろな種類のスクワットや膝上げ運動を組み合わせて行います。そのなかで、フル出力で筋肉を動かすのと、アクセルを閉じるようにして動きを止めるのを繰り返します。これによって、燃費を悪くして糖をたくさん使うことを狙っているのです」(中野さん)

もとはタクシー運転手のために考案された!

運動すると糖は筋肉で消費される。つまり、筋肉が大きいほど、多くの糖が使われるわけだ。

「これも自動車で例えれば、軽自動車の660ccのエンジンよりも、かつてのアメリカ車の5000ccのエンジンのほうが、多くのガソリンを使いますよね。筋肉が大きいほうが多くの糖を消費できるので、運動しながら筋肉を鍛えて大きくすることが、血糖値を下げるためには重要なのです」(中野さん)

中野さんが考案したエクササイズは、椅子に手をかけてバランスを取りながら行うのも特徴だ。これにより、体を大きく沈み込ませて、しっかりと筋肉を使うことができる。運動に慣れていない人は、スクワットなどを行っても、バランスが取れないために、筋肉にしっかりと負荷をかけられなかったりするが、椅子を使えば初心者でもバランスが取りやすいので問題ない。

「筋肉量には、当然、個人差があります。筋肉が少ない方は、体を深く沈み込ませないようにしたり、回数を減らしたりするといいでしょう。筋肉が増えてきたら、負荷を上げればいいのです」(中野さん)

実は、中野さんによると、このエクササイズは、もともとはタクシー運転手のために考えたものだったという。

「タクシーの運転手さんは、一日中座っているので、糖尿病になる人が多かったのです。タクシー会社と製薬会社から依頼を受けて、短時間でできる運動を考えました」(中野さん)

タクシー運転手が勤務中に、血糖値を下げるためにウォーキングすることは難しい。一方、中野さんのエクササイズなら、トイレのあとにでも5分間で行える。

「タクシーのドアを開け、ドアの上と車両の屋根の上に手をかけてできるエクササイズを考えました。屋内でやるときは、椅子を2つ使うというわけです」(中野さん)

糖尿病は、一度罹患してしまうと治すことができない。できれば糖尿病になる前に、運動によって予防したい。そのためにも、中野さんが考案したエクササイズを活用しよう。

(ライター 松尾直俊、イラスト 内山弘隆)

中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーションCLUB100技術責任者、PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。フィジカルを強化することで競技力向上やけが予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。元卓球選手の福原愛さんなど多くのアスリートから支持を得る。日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍。最新刊は『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)。

[日経Gooday2019年2月20日付記事を再構成]

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