高校生アスリート、世界に出よう NCAAにチャンスドーム社長 安田秀一 米国の学生スポーツ(下)

日本でバスケットボールやバレーボールを極めたい女子は、五輪を目指して高校から実業団チームに進む選手が大半ですが、米国の大学に進んで勉強を続けながら高いレベルを目指すという道もあることを知ってもらいたいのです。

NCAA1部校であるハワイ大学には、前編でご紹介したアメリカンフットボールの伊藤玄太選手のほかにも、山崎真彰選手という野球選手が在学しています。山崎選手は昨シーズンの打率が3割2分5厘で、ベストナインに値するオールカンファレンスに選出され、3年生にしてドラフト候補でもありました。

高校を卒業して日本の大学に進学したのですが、 大学野球部の雰囲気が合わず、アメリカの大学を目指したそうです。日本の大学野球は、授業料以外に、用具や遠征費などたくさんのお金がかかったり、いまだに1年生は坊主であったり、角界でいうところのかわいがり的な指導があったり、野球とは全く関係ない「しきたり」がたくさん残っています。そしてそれらは、野球はおろか、社会に出ても何ら役に立つものではありません。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズがそんな環境から生まれるはずがないのです。

大学時代から「競技引退後」考える

昨年、友人であり、仕事のパートナーでもある米アンダーアーマーのケビン・プランクCEO(最高経営責任者)とハワイ大を訪れました。そこで、メリーランド大のフットボール選手だった彼がフットボール部の選手たちを前に披露したスピーチがとても印象に残っています。

ケビンが「みんな(米フットボールのプロリーグである)NFLに行きたいか」と聞くと、全員が「イエス」。次に「では、NFL選手の平均登録年数を知っているかい」という問いに、学生はそろって「3年!」と答えました。

それでケビンが話すわけです。「だからフットボール以外のことをここで学ぶ意義がある。僕は君たちと同じように大学でフットボールをやって、卒業後に高校、大学のチームメートと会社を作った。設立当初に僕を助けてくれた取引先や関係者は皆、フットボールをやっていた仲間たちだった。君たちもここで出会った仲間たちが、その後の人生を支えてくれるんだよ」

僕は、まず学生たちがNFLの平均選手登録年数を即答するのに感心しました。NCAAでアメフトやバスケットをプレーする選手はプロ入りを夢見ています。だが、それがかなうのは一握りで、たとえ夢がかなっても多くの選手は数年しか続かない。ではどうすべきなのか。

大学はアカデミック・サポートを通じて勉強はもちろんのこと、人生設計についても教えています。ケビンのような「成功者の先輩」を招待して、スピーチをしてもらいます。大学での目的はプロの選手になることではなく、いい人生を歩む準備をすることだという考え方が当たり前になっているわけです。

人生を充実した幸せなものとするために、どんな道を選べばいいのか。それを選ぶのは自分自身です。米国の学生は卒業後、そして競技引退後の人生をしっかりと考えています。

情報の分散化によって個性が解放された今、社会はよりボーダーレス化が進んでいます。日本の高校生、大学生のライバルは、世界で活躍する同世代の学生たちです。情報を取りに行くたくましさ、環境を勝ち取る行動力、何より自分の成長への意欲がそのエネルギーになるはずです。

知識は意欲の源泉です。その意欲を勇気に変えて、果敢に世界にチャレンジしてほしいと思います。

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わっている。

(「SPORTSデモクラシー」は毎月掲載します)

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