女性活躍だけじゃない 味の素、全社意識改革の理由

野坂千秋常務執行役員食品研究所長。1983年に味の素に入社。食品研究所原料食材調理工学研究室長、上海の現地法人への出向などを経て、2011年から執行役員、15年から常務執行役員。17年7月からダイバーシティー担当も兼務(写真:吉村永)
野坂千秋常務執行役員食品研究所長。1983年に味の素に入社。食品研究所原料食材調理工学研究室長、上海の現地法人への出向などを経て、2011年から執行役員、15年から常務執行役員。17年7月からダイバーシティー担当も兼務(写真:吉村永)

味の素が女性だけでなく、全社員が働きやすい会社を目指してダイバーシティー施策に取り組んでいる。女性管理職の登用にも積極的に取り組む。「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」を解消するための研修もその一環だ。今後は全社に展開していくという。前回の「16時半退社が定時 味の素は誰もが働きやすい会社に」に続いて、野坂千秋常務執行役員に取り組みの詳細を聞いた。

白河桃子さん(以下敬称略) アンコンシャスバイアス研修によって、技術系と事務系といった組織の壁も突破できる。素晴らしい変化ですね。今後も研修は続けていく予定ですか。

野坂千秋さん(以下敬称略) はい。さらに現場のグループ単位で受講できるよう、外部監修のもと、オリジナルのeラーニング教材も開発しているところです。社内の事情をより反映した研修になるよう、社内で講師を育成しようとしています。おそらく男性の講師のほうが多くなりそうです。

白河桃子さん

白河 男性が講師として前に立つ、というのは重要ですね。先ほども申し上げたように、主語が女性ではなく男性になることが、ダイバーシティーの肝だと思います。女性が前に立っただけで、「あー、女性活躍ね」とシャッターを下ろしてしまう人は少なくないので。

野坂 経営課題としての発信が重要だと思っています。一方で、女性により活躍してもらいたいというメッセージも強く発信しています。

白河 特に西井孝明社長が就任してから、女性活躍が本格化した印象がありますね。

野坂 はい。就任時に、西井は「日本で一番女性も活躍する企業にします」と宣言しています。新卒採用でも当社は「リケジョ人気ナンバーワン」で、もともと女性が多いメーカーです。全体の男女比は7:3ですが、研究所の女性比率は社内平均を上回っています。

ところが、基幹職(管理職)となると、その比率は9:1に。これはグローバルの味の素グループの中でも日本が突出して低く、17年度のマネジャーにおける女性比率はグループ全体で22%、アジアで36%、アメリカで30%、欧州・アフリカで28%なのに対し、日本は7%。日本の状況を象徴するように、味の素グループにおいても日本の女性活躍推進は一丁目一番地の課題になっています。この状況に、社長はじめ経営陣は危機感を抱いているんです。

白河 想像するに、社長ご自身の海外赴任経験も影響しているのではないでしょうか? 海外で見てきた風景と日本の風景があまりにも違うという実感を持っていらっしゃるのでは。

野坂 海外法人時代に撮った集合写真をスクリーンに投影して、女性をピンク色、男性をブルーに塗り分けて、「ほら、こんなに比率が高いんだよ」と見せられたことが何度かあります。社内の女性管理職はなんとか100人を超えましたが、営業や生産の部門にはまだまだ少なかったり、部門の偏りがあったりするので、より幅広い分野での活躍を進めることも課題です。