挑戦に年は関係ない 世界で活躍する日本人女性が語る
グローバル・ウーマン・リーダーズ・サミット
世界を舞台に活躍する女性リーダーの育成やダイバーシティ(人材の多様性)推進に向け、日本経済新聞社は1月28日、「グローバル・ウーマン・リーダーズ・サミット」を東京都内で開いた。国際社会での果敢な挑戦をテーマにしたパネルディスカッションでは、米欧を拠点に各界で活躍する日本の女性たちが登壇。半生と未来を語り合った。(本文敬称略)
資産運用会社CFO 川和 まり氏(米国在住)
金融のスペシャリストとして米国でキャリアを築いた後、夫と資産運用会社と金融ロボアドバイザーの会社を設立し現在に至る。3男2女の母
インテリアデザイナー 吉田 恵美氏(米国在住)
米の大手建築会社などを経て2005年に独立。「和の心」を生かした作品を得意とし、米の著名人ら幅広い顧客を持つ。受賞歴多数。2児の母
美術家 イケムラ レイコ氏(ドイツ在住)
欧州を拠点に活動し国際的に高い評価を得ている。1991~2015年ベルリン芸術大教授。4月1日まで都内の国立新美術館で大規模な個展を開催
司会 まずは現在の仕事についてうかがいたい。
川和 Emotomyという会社で、金融とIT(情報技術)が融合したフィンテックの技術を金融機関に提供。取引先の業務効率化やコスト低減などを支援している。
社名にある「tomy」とは古代ギリシャ語で何かを切り取るという意味だ。感情(emotion)を切り取って冷静に、資産形成や資産運用の判断をするツールを提供したいとの意味を込めて名づけた。「ロボアドバイザー」とは、ゲーム感覚で資産レベルや達成目標などを顧客に選んでもらい、そこから最適な投資戦略を自動的に算出し提案するサービスを指す。
司会 吉田さんは1994年に米アイオワ州立大芸術学部を卒業。現在はフリーの立場で高級住宅などのデザインを手がける。高額な物件が多いそうだが、具体的には。
吉田 物件にもよるが、受注金額は1億~2億円がスタートで30億円程度の仕事も。そうした仕事を8~12件程度、抱えていることが多い。
司会 吉田さんは世界最大の住宅デザイン情報サイト「Houzz」が選ぶ「ベスト・オブ・ハウズ賞」を5年連続で受賞。一方、イケムラさんもドイツの現代アートの世界で最も権威があるとされるアウグスト・マッケ賞などを受賞し、現在はベルリンにスタジオを構えている。
イケムラ 今のスタジオ兼住居は、夫で建築家のフィリップ・フォン・マットと二人で計画してつくった。彼とは作品だけではなく、我々の生活を通じて、何かを一緒につくり上げていこうという関係だ。私はドローイング(線画)から始まり、80年代に絵画と彫刻、90年代は写真、最近は映像など多様なメディアを使って仕事をしている。
司会 イケムラさんは大阪外国語大学(現大阪大学)でスペイン語を学んでいた学生時代に渡西。海外に雄飛したきっかけは?
イケムラ 一つは、美術についていえば当時は70年代で日本で本物を見るのが難しかった。文学少女で欧米の文学に親しんでいたこともあり、実際にそれを経験してみたいとも。トランク一つで矢も盾もたまらず出かけた。
吉田 私もスーツケース一つで渡米し、まずはミネソタ州の短大へ。高校時代は薬学部志望だったが受験で失敗。予備校で国際色豊かな英語の先生と出会ったことが転機に。「もっと広い世界を見たい」との思いに駆られ、受験勉強をやめて出発した。
司会 川和さんは上智大のご出身だ。米スタンフォード大の大学院でも学ばれたが、留学のきっかけは?
川和 会計士として監査法人で働いていた。子供を1人育てていて、当時の日本でプロとしてやっていくには風当たりが厳しかった。
同時に監査より自分で何かしたいとの思いもあり、米国にはまだ国内になかったビジネススクールというものがあると知り受験。子連れで渡米し卒業後はウォール街で働いた。金融の世界は非常にペースが速く新しいものをつくる業界である点にひかれた。比較的楽観的に考えていてやってみたらできた感じだ。
司会 イケムラさんが美術の道に進まれたのは?
イケムラ 当初は一応、専門をスペイン語としていたが、行ってみると言語の習得が目的ではないと気付いた。当時住んでいたグラナダで、たまたま彫刻家と知り合い、手のモデルなどをしてアーティストの生活に触れるように。本格的に学ぼうと今のセビリア大学美術学部の前身にあたる学校を受験。その後、スイス、ドイツと拠点を移し活動してきた。
司会 吉田さんがインテリアにひかれた経緯は?
吉田 米の短大時代、東ヨーロッパで歴史や地理を学ぶ機会があり、そこで触れたインテリアと建築に感動したことが大きい。語学力がなくても、その表現力に圧倒された。毎日のライフスタイルを支える空間をデザインしたいと、とにかく必死に自分の感性や表現力を養っていった。
司会 今後に向けての思い、または後進の女性たちにメッセージを。
イケムラ 私はキャリアという言葉が嫌い。芸術をキャリアと考えたことはない。終わることのない自分の道だと思っている。まだまだこれからだという謙虚さと野心というのをずっと抱えている。
川和 日本に戻ってくると「もうこの年になった」などとおっしゃる方の多さに驚く。米国で毎朝、ジムのプールで泳いでいるが、ロッカールームでご一緒する82歳の女性が最近起業した。環境問題に関心のある方で絶滅の危機にあるミツバチを守り、農業就労者にも役立つ害のない農薬を開発し株式上場の手続きも。そういうことを目の当たりにすると、いくつになっても遅くないと思う。
吉田 「きっとできるよ」という言葉が好き。海外での生活は孤独を感じることもあるし、語学ができなかった頃は悔しい思いもした。
行動見直し女性リーダーに サリー・ヘルゲセン氏講演
最近、「HOW WOMEN RISE」という本を出した(邦訳は日本経済新聞出版社の「コーチングの神様が教える『できる女』の法則」)。同書で伝えたかったのは、女性の振る舞いや習慣が自身の成功やキャリアの上昇を妨げているかもしれないということだ。キャリアの初期は役立ったものかもしれない。だがリーダーシップの発揮を阻む要因となっている。
30年にわたり女性リーダーの強みの発見と育成などを支援。男女が活躍できる職場づくりを目指す経営陣にも助言してきた。マーシャル・ゴールドスミス氏との共著による新刊「HOW WOMEN RISE」は発売直後から全米ベストセラーランキング入り。米ニューヨーク在住。
私は30年間、社会や組織のなかで女性に成功してもらうことをゴールにしてきた。なぜ組織の文化や構造ではなく、女性が行き詰まってしまう行動に注目したかというと、自らコントロールし状況を大きく改善できるからだ。ありがちな3つの行動とその克服法について話したい。
まずは「専門性を過大評価する」という悪癖から。キャリアを開発するうえで専門性やスキルは確かに重要だ。しかし、それは一部であり、自分のキャリアをサポートしてくれる人間関係を持っていることや、自身の仕事ぶりを一定程度、「見える化」することが本来は欠かせない。
女性は新しい仕事や職位につくと「6カ月間はこの仕事を学ぶことに注力しよう」などと考え、その後に、ようやく人間関係を築こうとする人が多い。対照的に、男性で成功している人は「この仕事で成功するためには誰が必要か」と仕事の初日からサポートを求める。それによって、より良いサポートを得られるうえ、自分の仕事ぶりも周囲に見えるようになる。
「専門性は十分に報われる」と思うと別の人の昇進で意欲を失うことも。だが、その人は人脈づくりや仕事の「見える化」が昇進理由かもしれない。この悪癖は能力開発の機会を奪いキャリア形成を邪魔する点も注意が必要だ。
2つ目は「完璧主義の罠(わな)に陥る」という悪癖だ。女性は育つ過程で周囲から完璧な行動を期待されがち。組織も、女性が正確で精密な仕事ができると報酬を与え、昇進させる傾向がある。だから女性は、それが昇進の秘訣だと受け取ってしまう。
一方、男性は、より大局的なものの見方や戦略的な考え方、あるいはその人が持つ人脈などで昇進する。必ずしも正確さや精密さを求められているわけではない。女性はそれらで報いられてきた分、より高いキャリアに進もうとする際、問題が起きる。
というのも、完璧主義には多くのマイナス面があるからだ。まず仕事を移譲できなくなり、相手の能力開発を妨げる。本当に細かい部分まで気になってしまうと、リスクをとりたがらない傾向に陥り、高いレベルで活躍できなくなる。組織で働く人のため、そして物事を前進させるためには大局的な観点から大胆な考え方をとる必要がある。
さらに問題なのが、周囲にも自分自身にも、非常に多くのストレスを生んでしまうことだ。誰も完璧主義のボスの下では働きたくない。この悪癖は、高いキャリアになればなるほど問題を招く。
3つ目はコミュニケーションに関するもの。「矮小(わいしょう)化する」「やり過ぎる」といった悪癖だ。
矮小化とは、例えば言葉が足りないということ。「これは重要じゃないと思うんですけれど、でも」といった物言いもそうだ。むしろ明確に自分のポイントを伝えた方がいい。自分のコミュニケーションは自分で築こう。あなたがリーダーなのだから。
部屋に入るときから、「すみません。すみません」というなど慢性的に謝ってばかりいるのも、矮小化の一つ。周囲はあなたを信用してくれなくなる。「彼女は自分の言うことを自分で支持していないようだ。だったら、なぜ、この人の言うことを聞かなければいけないのか」と相手に思われてしまうからだ。
一方、「やり過ぎる」とは、情報があり過ぎ、言葉の使い過ぎ、詳細に至り過ぎといったこと。リーダーとして存在感を高めるには、自分の言動に心を込めて集中することが大事だ。メッセージは明確に、正確に、短く。自分も他人も、ほかのことに気をとられないようにしたい。そうすれば相手も認めてくれる。
これらの悪癖を克服するには、まずは一つを選び、小さく簡単に取り組める部分から始めてほしい。そして「ヒントをくれないか」など周囲に助けてもらおう。自分のリーダーシップ育成で非公式な仲間をつくり、自分が変わろうとしていることを伝えよう。
素晴らしいアドバイスには、「ありがとう」の一言でいい。助言通り全部をやる必要はない。判断はしない、自分を批判し過ぎない、そして、自分に期待し過ぎないことが大事だ。長期的に、振る舞いの変化を起こしている人が最も成功する。
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