「私、ハッピーよ」と言いたい
著述家、湯山玲子さん
夫のことが大好きです。不満やけんかは人並みにあるけれど、とても幸せ。でも、友人・知人との会話では愚痴が好まれます。嫌みなく「私、ハッピーよ」と言うにはどうすればいいのでしょうか。(京都府・女性・30代)
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最初はラブラブでも、早くて3カ月後には生活スタイルの違いや欠点が見えてきて、幻滅するのが、結婚のリアルです。生活の節々に「どちらかが我慢する」という場面が出てくる。男性が外で働き、女性が専業主婦だったり、働いていても家事の負担が多かったりすると、愚痴が多くたまるのは女性。そういった夫の悪口を、妻たちが集まって本音で語ることで、結婚生活の理不尽を乗り越えていくのが、昔は井戸端会議、今は女子会といった精神安定システム。それは結婚生活が破綻したときに助けてもらえる重要な人間関係でもあったりします。
なので、相談者氏が「私、ハッピーよ」とそこで主張するのは、とんだお門違い。それどころか、場のコンセプトをぶち壊すマナー違反ですらある。そもそも、なぜ自分がハッピーだということを言う必要があるのですか? 「いいね」と言って欲しい、羨ましがられたいのならば、その試みは大失敗します。褒めて欲しいと自分から言う人に、抵抗感を感じるのが普通の大人の心理なので、「嫌みでなく自分のハッピーさを伝える」というのは、ほぼ不可能です。
私が気になるのは、相談者氏がなぜ、人に「自分はハッピーだ」ということをそんなにも伝えたいのかという点。ハッピー=幸福は、非常に個人的な感情です。人のそれを我が事のように感じられるケースもありますが、非常にレア。基本的には、ひとりで味わうものなのです。相談者氏はそこに他人の共感や承認を求めており、その様子はまるで幼児のよう。親は子どもが幸せだと自分も幸せだと感じますが、大人同士の人間関係はそうはいきません。夫婦関係のハッピーさは、当事者が自分の心で感謝し、堪能すべきもので人に言いふらすものではない。
今流行のポジティブシンキングの影響も感じられます。愚痴や嫉妬、怒りなどマイナス思考もまた大切な人間性の一部なのですが、相談者氏はそれを「無いこと」にしハッピーマインドのきれい事にしたがっているように思えます。
落語の『厩(うまや)火事』には、愚痴ばかりの妻に遊び人の亭主と、どう見ても仲の悪い夫婦が出て来ますが、物語とは裏腹に、夫婦の情愛が浮き彫りになるところが真骨頂。夫婦間のハッピーさなんて、人それぞれだということを理解しましょう。
[NIKKEIプラス1 2019年2月23日付]
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