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篠原涼子さん 本格的な演技派へ40代からの挑戦

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NIKKEI STYLE

2018年の1年間に日本で公開された映画の優秀作品を表彰する「第42回日本アカデミー賞」最優秀賞の授賞式が19年3月1日に都内で行われます。私が特に注目したのは、優秀主演女優賞と優秀助演女優賞をダブル受賞した篠原涼子さんです。作品は『人魚の眠る家』(主演)と『北の桜守』(助演)です。

日本アカデミー優秀賞をダブル受賞

篠原さんは45歳、長いキャリアのなかで映画での女優賞受賞は今回の作品が初となるのだそうです。芸能界デビューしてすでに30年近くになる篠原さんは、TVドラマを中心に人気女優としての地位を確立しています。ですので、初受賞というのはちょっと意外に思いました。

1990年にアイドルグループ「東京パフォーマンスドール」でデビューした篠原さんは、94年に小室哲哉さんのプロデュースで『恋しさと せつなさと 心強さと』をリリースし、ダブルミリオンの大ヒットを記録、レコード大賞の優秀賞を受賞すると同時に紅白歌合戦への出場も果たしています。その後は歌手から女優の道へと転身し、数多くの人気ドラマの主役を務めるようになりました。

『anego(アネゴ)』(日本テレビ系)、『アンフェア』(フジテレビ系)、『ハケンの品格』(日本テレビ系)など、美しくて正義感が強く、仕事のできるカッコいい大人の女性を描いたドラマを通じて、世の女性たちの圧倒的な支持を得る人気女優としての地位を確立します。

こうしてクールでカッコいいけど実はかわいらしいというシンボリックなイメージを定着させた篠原さんですが、42歳のときに演じた『オトナ女子』(フジテレビ系)でそのイメージの展開も一旦終止符を打ちます。

女優としての歩みに変化

2年前の43歳のときに挑んだスペシャルドラマ『愛を乞うひと』(読売テレビ制作・日本テレビ系)あたりから女優としての進み方に変化が見え始めました。

このドラマでは虐待していた母親と虐待されていた娘の一人二役を演じました。見ていて心がしめつけられる場面が多かったものの、ネット上では「篠原涼子の芝居がすごい、怖い」「痛くてつらかったけど、篠原涼子の演技に圧倒された」など、役者としての演技力を称賛する声が上がっていました。

そして、そのように人気女優から役者としての存在感が増し始めたなかで取り組んだのが映画『人魚の眠る家』でした。原作は東野圭吾さんの人気小説です。愛する子供に訪れた脳死という悲劇に直面し、究極の選択を迫られ過酷な運命を背負うことになった夫婦の姿を描いたヒューマンミステリーです。

狂気にも近い行動で我が子を守り抜こうとする母親役を演じた篠原さんは、この作品ですでに「第43回報知映画賞」の主演女優賞を受賞しています。

この篠原さんの受賞について、大ヒット御礼舞台あいさつに登壇した共演者の西島秀俊さんは「撮影時は毎日段取りから号泣して、1日泣いて帰るというのを繰り返すほど役に没頭して熱演していたので、これは賞をとらなきゃだめだろうと思っていました」とたたえていました。

篠原さん自身も映画.comのインタビューで、「約2時間の映画の中で、ひとりの女性がこんなにもいろんな感情をあらわにする作品もなかなかないですよね。やらなかったら後悔すると思いました。壁を乗り越えたいという思いもあり、すごく大きなターニングポイントになる気がして、トライしてみようって思いました」と、女優として新たな自分を見いだす決意と意気込みを抱いたチャレンジであったことを明かしています。

40代になっていかに殻を破るか

40代半ば、女優として自分の殻を破るのにはまさに絶妙なタイミングだったと言えるのかもしれません。

一般的なビジネスの世界においても、自身の殻を破ることはなかなか大変です。これまで積み重ねてきた功績、仕事との向き合い方や取り組み方など、40歳を過ぎる頃には自身のスタイルが確立されていることでしょう。

特に女性の場合は、必要とされている自分、周りから求められている役回りを全うしてきたなかで、いつのまにか自身のキャラクターまでもが画一的になりがちです。

本当はもっと別の企画にチャレンジしてみたい、自身の中にくすぶっている力を発揮したい、私の性格はもっと違うキャラクターなのに……と、心の奥にしまったままの思いをくすぶらせている方もいることでしょう。

篠原さんも実は、人気女優として活躍しながらも「私はまだ自分のことを女優だと感じられなくて」と、仕事人としての自己を確立できずにいた思いを転職サイト「ウーマンタイプ」のインタビューで明かしていました。

「いろんな女優さんとお仕事したり、お芝居を拝見したりすると、やっぱり自分はまだまだだなって思う。私は、自分で自分のことを納得させてあげられる人間になりたいし、人にも認めてもらえる人間になりたい。そのためには、もっといろんなものを蓄えていかなくちゃいけないと思っていて。この役も確かに難しいハードルかもしれないけど、それを飛び越えられるような人間になりたいなって。だから迷わずやらせてくださいってお願いしたんです」

40代半ばを迎え、キャリアを積んできたとはいえ、もう一段高いハードルを越えた仕事人として、自分が納得できる成果を出したい。その思いが篠原さんの新たなチャレンジにつながったといえます。

挑戦に遅すぎるということはない

もう一段高いハードルを越えたい……。

男性の筆名を使用した英国の女性作家・ジョージ・エリオットの言葉に「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということはない」という名言があります。

仕事のハードルは周囲から与えられるものもあれば、自身で設定していくものもあります。

篠原さんのように自身で設定するハードルを高くしていく試みに、40代半ばを迎えようが、50代になろうが、遅すぎると諦めてしまう必要はありません。

そして、長くキャリアを重ねてきているからこそ、ハードルを設定したら、新人時代のように具体的な努力や学びを意識しなくても、これまで蓄積してきたストックの出し方や組み合わせ方を工夫することで、そのハードルを越えることができるのでしょう。

西島さんも前出のインタビューで、「人生の経験が、女優としてのキャリア、演技の厚みにつながっているのを感じたし、セリフやちょっとした言葉の重み、説得力がすごく増していて、あぁ、きちんと生きているということが、それをもたらしているんだなというのを実感しました」と、篠原さんのこれまでの蓄積が自然と難しい役どころの演技に生かされていたと評していました。

ビジネスの世界で活躍している読者の皆さんも、40代を迎えてキャリアを積んできたからこそ、越えるべき新たなハードルを設定して挑戦してみる価値はあると感じます。

鈴木ともみ
 経済キャスター、ファイナンシャルプランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへの出演のほか、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。

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