16時半退社が定時 味の素は誰もが働きやすい会社に味の素 野坂千秋常務執行役員(上)

「無意識の偏見」が女性活躍を阻む

白河 例えばどんな事例を取り上げたのですか? 私が研修でよく使う問いかけは、「海外出張のオファーを3歳の子どもを持つ女性と、同じく3歳の子どもを持つ男性にする場合、どちらのほうがためらいますか?」といったものですが、近い事例でしょうか?

野坂 はい。当社はグローバル企業で海外赴任もありますので、そういったときのオファーというのは身近な例になります。人事メンバー向けのワークショップでは「男性だったら支障が少ないかなぁ」「子育て中の女性社員にはやっぱりちゅうちょする」という議論になりました。

「配慮の前に本人に気持ちを聞き、その上で配慮する」ことが重要だという

しかし、「『出産した女性は皆ライフに重きを置くはず』という思い込みもアンコンシャスバイアスですよ」という解説がありました。「いや、それは偏見ではなく配慮のつもりだよ」という意見が出ましたが、「配慮の前に本人の気持ちを聞き、その上で配慮する順番がいいんですよ」というアドバイスが。「なるほど」と納得の声が多数でしたね。

おそらく、当社は先に「配慮の施策」を進めたので、配慮する文化が過剰に浸透しているのかもしれません。配慮が行き届く職場になったというのは素晴らしい半面、ともすると公平な機会提供を阻む問題もあったり、当事者本人が「私は子どもがいるから手を挙げちゃいけないのかな」と思い込む心理的要因になったりする。そのバイアスを是正するトレーニングが必要になってきたのだと、経営陣も認識しています。

白河 研修の対象になるのは、経営幹部や管理職だけですか?

野坂 一般職もミックスでやるようにしています。そのほうが多様な意見が出て、議論もしやすくなることが分かってきました。例えば、「男性管理職だけ」など同質性の高いグループだとなかなか意見が出にくいんですね。

あるとき、男性管理職だけのグループと一般職を交えたグループとで、「身近にある偏見を書き出そう」というワークショップを実施したら、付箋の数が6倍くらい差が出てしまいました(笑)。男性管理職だけだとなかなか意見が出なかったんです。むしろ異なる立場から意見を出し合うほうが、心理的安全を確保しやすいのかもしれないです。

白河 研修で取り上げる偏見というのは、男女差のほかにもありますか。

野坂 男女差だけでなく、国籍や年齢、経験など、いろんな視点で議論しています。経験というのは、専門領域や採用の違いなど。当社は退職率約1%という非常に同質性の高い組織で、中途入社が少数派なんですね。「何年入社?」と聞き合うのが日常会話で、社内にしか通じない用語も多い。プロパー社員という多数派の意見が優先されやすいのでは、という気づきを持つことが大事だと伝えています。

白河 専門領域の違いというのは。

野坂 「技術系」「事務系」と立場を分類(役割分担)する文化が醸成されていましたね。それは味の素という会社が創業期に、池田菊苗という研究者がうまみを発見し、鈴木三郎助が事業として組み立てたという原点に端を発することも大いに影響しているのだと思いますが。

白河 会社の発祥から、技術開発と事業に組織がわかれていたんですね。創業以来の文化が、実はアンコンシャスバイアスにもつながっていたかもしれないと。

野坂 それが味の素らしさを発展させた重要な要素だったと思いますが、一方で、同質性の高い文化を生んでいたのかもしれないです。最近では経営会議でも「技術だ、事務だと言うこと自体がおかしいよね」というフレーズが当たり前のように出てきます。20年の4月入社より技術系、事務系と分けることがなくなりました。部門間の人材交流もより活発になっていくでしょう。

(来週公開の記事ではアンコンシャスバイアス研修の成果や今後の展開や目標などについてお聞きします)

白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「『婚活』時代」(共著)、「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)。

(ライター 宮本恵理子)