アカデミー賞はハプニングも楽しむ 授賞式の見どころ
『ボヘミアン・ラプソディ』『ROMA/ローマ』・・・
第91回アカデミー賞授賞式が2月25日(日本時間)、米ロサンゼルスで開催される。毎年、様々な話題を提供し、ハプニングも起こる授賞式の模様をWOWOWが今年も生放送する。そこで、番組の案内役を長年務めているジョン・カビラさんと高島彩さん、そして昨年に引き続きレッドカーペットのリポーターを務める女優のすみれさんに、授賞式の楽しみ方についてたっぷりとお話を伺った。
◇ ◇ ◇
今年のアカデミー賞の見どころは?
――アカデミー賞の作品賞には、日本の興行収入が100億円を突破した大ヒット作『ボヘミアン・ラプソディ』をはじめ、批評家たちからの高い評価を獲得して最多10部門にノミネートを果たした『ROMA/ローマ』、さらにアカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデングローブ賞を受賞した『グリーンブック』など、バラエティーに富んだ作品が名を連ねています。今回、注目している作品や部門はありますか?
すみれさん(以下、すみれ):私は中学校のときからレディー・ガガの大ファンなので、主演女優賞にもノミネートされている『アリー/スター誕生』。それから、『ROMA/ローマ』が話題になっていますが、主人公が強い女性という最近のハリウッドでも注目されているテーマというのは大きいなと思います。
高島彩さん(以下、高島):私が気になっているのは、『女王陛下のお気に入り』。レイチェル・ワイズとエマ・ストーンがそろってノミネートされた助演女優賞も話題ですよね。劇中での女同士のドロドロした戦いは怖かったですが、もし片方が受賞した場合、もう一人はどんな表情になってしまうのか。生放送でその瞬間が映し出されると思うので、スピーチも含めておもしろそうですよね。でも、作品賞としては『グリーンブック』がいいかなと思っています。
ジョン・カビラさん(以下、カビラ):まず、作品賞は僕も『グリーンブック』。僕が注目している主演男優賞では、『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセンがイチオシ。とはいえ、体格改造の点から言うと『バイス』のクリスチャン・ベイルも強敵ですよね。ただ、総合力という意味では、監督も務めているので、4度目の正直で『アリー/スター誕生』のブラッドリー・クーパーも主演男優賞では有力かな。
それにしても、今回ノミネートされている作品賞は舞台が18世紀から未来までという幅広い作品がそろっているので、アカデミー賞ならではのラインアップという感じで本当に楽しみですね!
俳優たちがどのような主張をするのかに期待
――毎年、時代を反映する出来事が話題になりますが、今年はどのような展開になると思いますか?
すみれ:去年はファッションも含めて一番取り上げられていたのは、#MeTooでしたよね。
カビラ:じゃあ、今年はどうなるのかというところは気になりますね。
高島:すでに、トランプ政権の影響で『ROMA/ローマ』の主要キャストのビザが取れず入国できないといった事態も起こっていますから。
すみれ:そういったアメリカとメキシコの問題もあるので、みなさんがどういう主張をするのかというのは注目ですね。
高島:あと、LGBT(性的少数者)を扱う作品が例年より多く作品賞にノミネートされていますね。『ボヘミアン・ラプソディ』のようにストーリーの大半を占めているものもあれば、ワンポイントで出てくる作品もありますが、作品のなかに当たり前のように描かれていると、「日常のなかにあるものなんだ」と伝わりますよね。
『グリーンブック』は人種差別的な問題を取り上げていますが、硬い切り口ではなく、コメディーの要素も入れながら見せているので、その方がジワジワと心に響いてくる気がします。
――なかでも、楽しみにしていることはありますか?
カビラ:今回注目しているのは、「史上初」と付くもの。たとえば、劇場公開ではなく、Netflix作品として制作された『ROMA/ローマ』。動画配信サービスの作品としては初のノミネートとなりました。『ブラックパンサー』はスーパーヒーローものでは初、長編アニメ映画賞の『スパイダーマン:スパイダーバース』も『スパイダーマン』シリーズとしては初のノミネート。主演女優賞では『ROMA/ローマ』のヤリッツァ・アパリシオが女優デビューした作品でいきなりノミネートされたというのも初なので、「史上初シリーズ」が賞レースにどう絡んでくるのか気になりますね。
高島:あとは、「Shallow」で歌曲賞にノミネートされているガガが、授賞式でブラッドリーとどんなパフォーマンスを見せてくれるのかも気になっています。
カビラ:期待が高まりますね。
日本の作品が世界の大舞台にいても驚かなくなった
――日本からも『万引き家族』と『未来のミライ』の2作品ノミネートされていますが、どのように感じていますか?
高島:テニスの大坂なおみ選手が世界1位になったように、日本人や日本の作品が世界の大舞台にいることに驚かなくなってきたのがうれしいですね。今回は、強力なライバルもいるようですが、受賞を伝えられたらそんな幸せなことはないので、期待しながら当日を迎えたいと思います。
カビラ:『おくりびと』の興奮が10年ぶりによみがえりますね。
すみれ:私もぜひ応援したいと思っています。
カビラ:『万引き家族』は何と言ってもカンヌ国際映画祭の最高賞「パルムドール」に輝いた作品ですからね。是枝裕和監督の力量や俳優陣の演技が文化や言葉を越えて評価されているというのは、本当にうれしいことですよね。『未来のミライ』も細田守監督が家族の心象風景を描いていますが、普遍的なメッセージなので伝わるといいなと思います。
――すみれさんは昨年、現地でレッドカーペットを体験されてみて、いかがでしたか?
すみれ:私は7歳からアメリカでハリウッド映画とアカデミー賞を見て育ったので、去年は忘れられないことばかりでした。なかでも大ファンのウーピー・ゴールドバーグさんが来てくださったのには感動しました。パニックのあまり何を聞けばいいのかわからなくなってしまったので、頭の回転も速くしないといけないなと思いました。
高島:現場はものすごい熱気でしたね。
すみれ:とにかくカオスで、候補者の方が到着されると、さらにパニック状態になるので、動物園みたいでしたね(笑)。今年の意気込みとしては、去年はあまりにも興奮状態で聞きたいことが聞けなかったり、日本語と英語との切り替えが難しかったりしたので、落ち着くことと、いろいろと下調べなどの勉強もしっかりしていきたいと思っています。
高島:でも、すみれさんがワーッと盛り上がっている姿もみんな楽しみにしていますよ(笑)。
すみれ:そういう熱気が伝わっていればいいんですけど……。あと、去年は授賞式の前に現地でスマートフォンをなくしてしまい、アカデミー賞のことをSNSにアップできなくてすごく悲しい思いをしました。なので、今年は絶対に取られないように気を付けて、全力でがんばります!
カビラ:ちなみに、アメリカでは自宅で友達や家族と集まってアカデミー賞を一緒に見る「オスカーパーティー」というのをよくやりますが、すみれさんも楽しんでいましたか?
すみれ:うちはミュージカルが好きで、トニー賞のときによくみんなで集まっていました。
カビラ:アメリカでは「スーパーボウルか、オスカーか」というくらいビューイングパーティーをよくするので、生放送の時間帯は日本では朝なので、WOWOWが夜に再放送する字幕版の放送ではオスカーパーティーをしながら見てほしいですね。
アメリカ映画人のプライドとリスペクトにしびれる
――では、これまでのアカデミー賞授賞式のなかで、忘れられない場面などはありますか?
カビラ:一番は2年前に作品賞の発表で起きた作品賞の封筒取り違い事件ですね。ただ、あんな状況でも間違ってコールされた『ラ・ラ・ランド』のプロデューサーが、実際には作品賞を受賞した『ムーンライト』の制作陣に対して、最大級の賛辞を贈ったときは本当にしびれました。もっとも起こってはいけないことではありましたが、だからこそ垣間見ることができたアメリカ映画人のプライドとリスペクトに圧倒され、胸を打たれた瞬間だったですね。
すみれ:本当ですね。
カビラ:賞レースでは「〇〇 VS ○○」みたいな表現をしがちですが、おそらく当人たちはそんなことは考えてないですよね。つまり、競い合いはするけれども、敵ではないということ。だから、昔は受賞者を発表するときに「The winner is……」という言葉を使っていましたが、30年ほど前から「The oscar goes to……」という言い方に変わったんですよね。それも、勝ち負けではないということの表れだと思います。
人生のタイムラインに映画も加えてほしい
――アカデミー賞の見どころや楽しみ方を教えてください。
すみれ:もちろん全部です(笑)! と言いたいところですが、毎回いろいろな問題に合わせたファッションがあるので、私としてはジュエリーやドレスが楽しみですね。あとは、とにかく豪華ですし、みなさんオープンな方が多いので、どんなことを話してくださるのかというところもぜひ期待していただきたいです。
カビラ:人は生まれてから、学校に入ったり、出会いがあったり、結婚したりといった感じで人生に「句読点」があるものですが、そこに「あの年はあの作品がオスカーをとったよね」という要素が加わっていくと、またひとつ思い出が増えるはずです。映画とともに人生のタイムラインを刻んでいただくためにも、アカデミー賞は最適なイベントじゃないかなと感じています。
高島:今年はまさかの司会者が不在〔※〕という状況なので、始まってから何が起こるのか「えっ!?」という驚きをスタジオと視聴者のみなさんと一緒に味わいたいですね。あと、今回はアカデミー賞当日までに劇場公開やネット公開されているノミネート作品が結構あるので、まずは映画を見て、予想をしながらアカデミー賞をご覧いただくのがいいかなと思います。
※コメディー俳優のケビン・ハートが司会を務めるはずだったが、過去のLGBTに対する差別的な発言が問題となり、司会を辞退した。
カビラ:確かに、これまでは予告編しか見られなかった作品が多かったなか、作品を見たうえで楽しむことができるのは近年まれに見る展開ですよね。それから、やっぱりスピーチも見どころのひとつ。日本では芸能界にいる方が政治的な発言をすると物議を醸すことがありますが、アメリカではスピーチでいろんな主張をして踏み込んでいくカルチャーなので、そういった部分も楽しんでほしいと思います。
放 送 日:2019年2月25日(月)午前8:30 [二] [同時通訳]/夜9:00[字幕版]
案 内 役:ジョン・カビラ、高島 彩
レッドカーペット・リポーター:すみれ、尾崎英二郎
スタジオゲスト:川村元気、町山智浩
(ライター 志村昌美、写真 厚地健太郎)
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