お金に心揺さぶられる生き方しない 伊集院静氏の流儀

他にも「陰徳」という他国にはない考え方があります。寄付などの善い行いをして「徳」を重ね、しかもそれを「陰」とする、つまり表に出さないということです。とても大切な大人の流儀だと思います。

誰にも叱られず
自由に行動できるのが大人の特権
だから、好きなように生きよう

――お金に加え、「仕事の流儀」も大人の大きな関心事です。伊集院さんは50代後半から仕事量を倍増させたそうですね。

上の世代を見ていると、50代後半を過ぎると本気で働かなくなり、しかも高い給料をもらっている人間が多かった。自分はそうなりたくなかったし、それまで長年遊んできたから(笑)、逆に仕事を増やそうと思ったんです。今もちゃんと朝から机に向かっていますよ。正月は毎年、母親が暮らす山口の実家に帰るのですが、実家でも元旦から書いています。

――週刊誌で複数連載を抱えるなど、精力的に執筆されていますが、気力や体力を維持する秘訣はありますか?

気力も体力も全く衰えません。たくさん書くと決めて、書いているだけです。「60歳過ぎて気力がなくなった」なんて言う人がいるけれど、それは年齢のせいではなく、自分自身の気持ちや考え方のせいだと思うね。

この前も「定年したら何していいか分からない」って言うやつがいたから、「そんなこと言ってるのおまえだけだよ。普通は皆、定年してからこそが本当の人生だ、さてこれから何しようと50代から考えているもんだよ」と言ってやりました(笑)。定年したらやることがない、60歳を過ぎたら気力がなくなる、なんてステレオタイプをそのまま受け入れることは絶対にしない方がいい。

――人生100年といわれる時代、いかに働き、いかに生きていくか悩む人は少なくありません。

私からのメッセージは「好きなように生きろ」です。

やっと、誰にも叱られず、自由に行動できる立場になったのだから好きなように生きよう、と。人に迷惑を掛けない限り何をやってもいいし、「誰かを幸せにしなくては」と気負わなくてもいい(笑)。日常を生き続ける中で、知らないうちに誰かを救っていたり、誰かの力になっていたりする。生きていくって、そういうことじゃないのかな。

(撮影/福知彰子 取材・文/佐藤珠希)

[日経マネー2019年2月号の記事を再構成]

『誰かを幸せにするために 大人の流儀8』
伊集院静著/講談社/926円(税別)
人は何のために生きるのだろう。そのことが少しでも分かれば、人生は違ったものに見えて来る──。20歳で弟を事故で亡くし、35歳で妻・夏目雅子の白血病による死を経験した著者が、歳月を経て改めて問い直す生き続ける意味、そして幸せの姿とは。移りゆく時代や日々の暮らしの中から、独特の感性で掬い上げた大人の生き方や品格にまつわる真理や気付きをつづった珠玉のエッセイを収録。累計185万部を突破したベストセラー「大人の流儀」のシリーズ第8巻。
いじゅういん・しずか
1950年山口県生まれ。立教大学文学部卒業後、CMディレクターなどを経て81年『皐月』で作家デビュー。91年『乳房』で吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で直木賞、94年『機関車先生』で柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で吉川英治文学賞を受賞。作詞家としても活躍し、「愚か者」「ギンギラギンにさりげなく」(いずれも近藤真彦に提供)などのヒットを生んだ。2016年には日本経済新聞の朝刊連載小説で、サントリー創業者の鳥井信治郎の人生を描いた『琥珀の夢』が話題に。小説、エッセイ、コラムなど幅広いジャンルで精力的な執筆を続けている。

誰かを幸せにするために 大人の流儀8

著者 : 伊集院 静
出版 : 講談社
価格 : 1,000円 (税込み)

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