お金に心揺さぶられる生き方しない 伊集院静氏の流儀

自分以外の誰かのために
生きることで
人は「真の大人」になる

――大人の生き方をテーマにしたエッセイ「大人の流儀」シリーズの8作目が、2018年11月に刊行されました。11年の1作目発売以降、累計185万部超の大ベストセラーとなっていますが、多くの支持を集める理由をどう捉えていますか?

正直、よく分からないんだよね。世の中に対してものをはっきり言う人、きちんと叱る人がいなくなっているからじゃないかと言う人もいますが、自分ではあまりピンときていない。ただ確かに、「自分の意見をそのまま書く」という姿勢はシリーズ当初から変わっていないですね。

――最新刊のタイトルは『誰かを幸せにするために』。『さよならの力』(第7作)、『不運と思うな。』(第6作)、『追いかけるな』(第5作)など、強いトーンの前作までとのギャップが新鮮でした。

このシリーズのタイトルは毎回、編集者と銀座のバーでああでもない、こうでもないと話し合って決めているのですが、今回は「随分なタイトルになったなぁ」と思いましたよ。だって、誰かを幸せにするなんてこと、なかなかできないじゃないですか。ただ、自分以外の誰かのためを思って生きることの大切さは、私がずっと書き続けてきたテーマでもあります。

人は誰でも自分のことが一番かわいいもので、それはごく当たり前のこと。でも自分のことだけ考えて、自分のためだけに生きているのは、本当の大人ではないと思うのです。

――毎年伊集院さんが手掛けられている、新成人に向けたメッセージを掲載する酒造会社の新聞広告で目にした、「真の大人というものは己だけのために生きない人だ。誰かのためにベストをつくす人だ」という言葉が印象に残っています。

自分さえ良ければいいという考えは、そもそも人の中にあるものだけれど、今の世の中、その傾向がますます強くなっているように思います。他人が困っていても見て見ぬふりをしたり、人と分かち合うことを一切せずに独り占めしようとしたりね。

ただ、こういうことは理屈で教えるものではないとも思っています。なぜなら理屈で教えると、行動するのに理屈が必要になるから。倒れている人がいたら、助けるかどうか、なぜ助けるのかを考えるのではなく、考える前に助ける。そういうものだと思うのです。

――一方で、何を幸せと感じるかは人によって違います。良かれと思ってやったことでも、本当に相手のためになっているのか、心許ない面もありますよね。

そもそも「幸せ」がどんなものかなんて誰も知らない。「青い鳥」のようなものです。強いて言えば、安心できるとか心配事がないといった感覚の近くに「幸せのようなもの」を感じるぐらいじゃないかな。そして、安心して過ごせる時って、人生の中でそう何度もあるものじゃない。

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