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宮本亜門 オペラ「金閣寺」新演出で三島由紀夫を語る

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三島由紀夫原作、黛敏郎作曲のオペラ「金閣寺」が演出家・宮本亜門氏の新演出によって2月、東京で上演される。東京二期会とフランス国立ラン歌劇場の共同制作で、2018年3月に仏ストラスブールで新演出初演され、好評を博した。東京での凱旋公演を前に亜門氏に三島文学とオペラ演出について聞くとともに、歌手や指揮者の声も交えて「金閣寺」の魅力を探った。

「高校生のときに読んだ。自分のバイブルのような感じがあった」。三島氏の長編小説「金閣寺」(1956年刊)との出合いについて亜門氏はこう話す。応永4年(1397年)、室町幕府3代将軍・足利義満が開基となり京都に創建した臨済宗の名刹・鹿苑寺(通称・金閣寺)。金箔に輝く国宝の舎利殿「金閣」に学僧が火を放ったのは1950年のこと。この事件を題材に、溝口という青年僧が放火へと至る屈折した心理を、硬質な文体と精緻な論理構成で描いた小説だ。現代日本文学の傑作として翻訳され、三島氏はノーベル文学賞候補にも挙がっていた。

衝撃の事件から三島氏の姿を重ねて読む

「中学生の頃、三島自決のニュースがテレビで流れ、両親が大騒ぎした」。70年11月25日、三島氏は自衛隊市ケ谷駐屯地で決起を呼びかけた後、自決した。この事件の衝撃もあり、「三島作品を読むとどうしてもそこに三島さん自身の姿を重ねてしまう」と亜門氏は語る。「溝口、柏木、鶴川という登場人物3人は三島さんの分身。コンプレックスを持つ青年・溝口の心象風景のすべてに、神のように絶対的な金閣寺が入ってくる。美と醜の二元論的テーマがいくつもある」。そして「戦前、戦中、戦後をテーマにしている」点も魅力という。

亜門氏は舞台版「金閣寺」を演出した実績もある。しかしオペラの演出にあたっては「音楽の魅力が最大限に生きなければならない。舞台版の演出をいったん捨て、黛敏郎さんのオペラの中に入り込んで作った」。黛氏はオペラ「金閣寺」の作曲に向けて親友の三島氏本人に台本を頼んだが、実現しなかった。しかし三島作品の世界文学としての高い評価を背景に、オペラにする機会は海外から来た。ドイツの名門歌劇場ベルリン・ドイツ・オペラが黛氏に作曲を委嘱したのだ。台本はクラウス・H・ヘンネベルク氏によるドイツ語。1976年にベルリンで世界初演した。

亜門氏は新演出に向けて「黛さんの音楽を聴き、譜面を読み始めた際に葛藤があった」と言う。「小説での溝口は吃(きつ)音だったが、オペラでは手に障害を持つ人に変わっている。黛さんも葛藤したところを演出家の僕も歩まざるを得なかった。黛さんが入れ込みたかったお経の音楽的な力は、小説にはそれほど書かれていない。この黛オリジナルにどう向き合うか」でも苦心した。

 黛氏は58年初演の代表作「涅槃(ねはん)交響曲」で仏教の声明を取り入れた。「金閣寺」でも読経の音楽性を世界に問いたかったようだ。「金閣が燃え上がる最後の場面のお経は、昇華していく音楽。放火魔の話が逆転し、金閣寺と溝口が心中するような不思議な世界観が生まれる。美しくも怖い演出を大切にした」と亜門氏は説明する。

放火の場面からフラッシュバックするオペラ

オペラでは物語の展開も小説と異なる。「火を付けようとする溝口から始まり、自分の人生を振り返っていく。フラッシュバックが中心だ。そこで溝口の脳内に広がる世界を出した。頭の中で彼がイメージする極端で戯画化された世界観を舞台で作る。ボックスの中で溝口が葛藤し、昔を思い出しながら、やはり自分は火を付けなくてはならないとの結論に達していく演出にした」

新演出の特徴としてダンサー「ヤング溝口」の起用もある。「父親から金閣寺こそ神だと教え込まれた少年。最も純真で恐ろしい若い頃の溝口を登場させ、大人の溝口と戦わせた」。第3幕には「ヤング溝口が父親の遺灰を全身に塗りたくる場面もある。『俺はこんなに醜い男なんだ』という思いを表すために少年にそうさせ、内面の苦しみを見せた」。稽古を見ても、けいれんを起こして床をのたうち回るヤング溝口役のダンサーが大人の溝口の苦悩を分かりやすく表現していた。

亜門氏の斬新な演出を出演者はどう見るか。溝口役のバリトン・宮本益光氏は「自分の中にある三島像が亜門さんの演出によって溝口と重なってくるところが多々ある」と指摘する。「普通の人なら絶対にしないことに踏み込んで自由を得る生き方。亜門さんは溝口に三島氏自身の姿を投影している印象がある」

益光氏は歌手として台本が「ドイツ語で良かった」とも言う。「修辞法を駆使した三島氏の言葉は、活字を読むだけでも音楽的な力を持つ。その日本語を音程とリズムで発するとストレスを感じるはずだ。セリフがドイツ語ならばワンクッション入る。ドイツ語のセリフを日本語に訳しても、三島氏の思想にはなるが、彼の修辞法には到達しない。自分の頭の中にある三島氏の日本語の文章と、ドイツ語のセリフから出てくる思想が合う部分をどう演じるかがポイントだ」と指摘する。

 オペラ「金閣寺」は76年のベルリンでの世界初演後、日本では91年に初演され、97、99、2015年にも上演された。現代日本オペラの金字塔といわれる。フランスでは亜門氏による新演出での昨年3月公演が初演となった。東京二期会と共同制作した仏国立ラン歌劇場の「ラン」はドイツ語で「ライン」。ライン川対岸がドイツという仏アルザス地方、その二大都市ストラスブールとミュルーズで3~4月に計7回公演した。ストラスブールでの初演は完売で、チケットを買えなかった客はゲネプロ(最終リハーサル)を見に来て、それも満席という盛況ぶりだった。

三島文学を愛してやまないフランス人

「想像を超えるほど皆さんが『ミシマ』を愛していた」と亜門氏はフランス初演を振り返る。フランス公演に出て、今回の東京でも全回出演するソプラノの嘉目真木子氏も「三島作品だったことが大きかったのではないか」と話す。「公演に先駆けて亜門さんが三島特集の講演をしたり、図書館がタイアップして三島ブースを組んだり、三島文学への関心がとても高かった」と嘉目氏。ドイツ語を解するフランス人も少なからずいるアルザス地方。ドイツ語オペラの「金閣寺」を受け入れやすかったとも思われる。

亜門氏は三島氏とフランス文学とのつながりも指摘する。「彼が最も興味を持っていたのはフランス文学。ラディゲの小説『肉体の悪魔』を含め、フランス文学の影響もあって『金閣寺』はできている。フランス人は美に敏感な民族。彼らは三島をすんなり受け入れた」

欧州の書店で目に付く日本文学の翻訳書といえば、現時点では村上春樹氏の小説が筆頭に挙がるが、それでも三島氏の作品は村上氏に次ぐほどの存在感を示し続けている。今回の公演で東京二期会と東京交響楽団を指揮するフランス人の若手指揮者マキシム・パスカル氏も三島ファンだ。「指揮を頼まれたとき、黛氏の音楽は知らなかったが、すぐに承諾した。というのも僕はほんの若い頃から『金閣寺』や『豊饒(ほうじょう)の海』(『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の4部作)をはじめ三島作品を愛読してきたからだ」とパスカル氏は言う。特に「金閣寺」については「人間と芸術作品との愛憎劇」と捉え、傾倒しているようだ。

黛氏の音楽に関してパスカル氏は「とても個性的で、タイプ分けできない」と指摘する。「歌手らと練習を重ねるうちに黛氏の音楽の素晴らしさも発見した。メシアンやストラビンスキーの音楽の要素を少し感じるが、ブーレーズやシュトックハウゼンのような感覚を持つ20世紀の音楽だ」。三島氏の小説も黛氏の音楽も「日本独自の芸術性、日本人の繊細な感性を持つ一方で、フランスの芸術に通じるところもある」と親しみを示す。

ただ、そもそもオペラ「金閣寺」はベルリン・ドイツ・オペラとの共同制作で世界初演されたため、黛氏の音楽は威圧感があって「大変ドイツ的だ」とも亜門氏は言う。「三島さんはカラフルなものを求めた人。どちらかといえばフランス的。息が詰まる舞台にはしたくない。リアルを追い求めるだけではない色彩感を大事にしたい」。実際に彼の舞台で演じた嘉目氏は「とにかく美しい。色とりどりに作られている。亜門さんはそうした情熱を出演者にも求める。それが一つになったときに舞台上がきらきらと輝く」と説明する。

オペラ「金閣寺」は2月22、23、24日の3回、東京文化会館大ホール(東京・台東)で上演予定。東京二期会とはこれまでモーツァルトのオペラも作ってきた亜門氏だが、「今回は日本の作品だからみんなが理解しやすい。戦争や戦後のこと、今の日本のあり方など、三島さんと溝口の訴えたいことは近い。日本の出演者たちにも話しやすい」と語る。

日本が世界に誇る三島文学、現代音楽の旗手だった黛氏の音楽遺産。その奥深さと魅力を日本から世界に発信する凱旋公演に期待が集まっている。

(映像報道部 池上輝彦)

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