北磁極の位置が急激に移動 原因不明、ナビにも影響

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/2/25

更新が遅れた影響は?

そこでNOAAとBGSは、直近3年分のデータを使って、主に米国防総省、英国防省、北大西洋条約機構(NATO)などに向けて修正したバージョンを、2018年10月にオンラインで公開した。

だが、政府機関が閉鎖されたせいで、オンライン計算機やソフトウエア、技術注記の変更など、民間用の更新が遅れていた。米コロラド大学ボルダー校の地磁気学者アーナウド・チュリアット氏は、基本的に磁気ナビゲーションの利用者は、誰でも今回の更新の恩恵を受けることになるだろうと話す。NOAAの研究者でもあるチュリアット氏は、モデルの更新に携わっていた。

現在、世界磁気モデルはグーグルやアップルをはじめ、多くの地図システムが採用している。例えば、地図サービスをスマートフォンで使うときの方角だ。地理的な東西南北が正しくなるように、磁気モデルで調整しているのだ。とはいえ、今回、磁気モデル更新の影響があるのは、緯度が55度以上の地域に限られるという(日本最北端の宗谷岬で北緯45度)。つまり、通常の用途では、大きな影響はない。

「北極圏でトレッキングでもしていない限り、大した影響を受けないでしょう」と、ベッガン氏。

なぜこんなことが起こっているのか

尋常ではない北磁極の変化を見守る理由は、地図のためだけではない。地球の磁力線が変化していることは、地下数千キロメートルで起こっている事態を理解するための、数少ない手掛かりになる。

2018年、米地球物理学連合の秋期会合で、リバーモア氏は最近の奇妙な動きについて、「磁場の綱引き」が起こっていると報告した。北磁極は、カナダ北部とシベリアにある2つの強力な磁場領域によってコントロールされているらしいというのだ。これまではカナダの方が強力で、北磁極をしっかりと捉えていたが、それが最近変わり始めているようだという。

「シベリアの方が戦いに勝利しそうな気配です。地理的な北極点を超えて、磁場を自分の方へ引き寄せようとしているようです」

原因は、カナダの地下の外核でジェット噴流が起こり、磁場が薄く引き伸ばされ、弱まってしまったことだろうと、リバーモア氏は推測する。ここ数十年の北磁極の北方移動とジェット噴流が起きた時期は重なっている。だが、結論を急ぐべきではないとリバーモア氏は断っている。

「両者の間には関係があるかもしれませんが、はっきりとは言えません」

地磁気が逆転する可能性は?

カナダ天然資源省の科学研究員ロビン・フィオリ氏は、北磁極が今後どうなるかを予測するのは難しいとしている。現在の速度を保ったままシベリアへ向かうのかどうかもわからない。北磁極に関して唯一はっきり言えることは、予測がつかないということだ。

岩石を研究すると、磁極に関してもっと奇妙な歴史も明らかになる。過去2000万年の間、北磁極と南磁極は何度か入れ替わっているらしいのだ。この現象は、20万~30万年ごとに起こるとみられている。はっきりした原因は分かっていないが、北磁極が最近おかしな動きを見せているからといって、もうすぐ地磁気が逆転するわけではなさそうだ。

「地磁気が逆転している兆候はありません。起こるとしても、過去の地質学的記録から、少なくとも数千年はかかると思われます」と、ベッガン氏は言う。

フィオリ氏も、過去に北磁極が今よりもはるかにおかしな動きを見せていたことを示すモデルがあると付け加えた。例えば、1900年以前にも北磁極は激しく揺れ動き、カナダで何度か急カーブして南へわずかに向かっていた時期もあった。

「どれも、外核にある液体の流れが変化したことと関係しています」。最近になって急に活発化したようにみえる北磁極だが、これは今に始まったことではないのだ。

「過去数十年間と比較すれば、現在磁極の移動は速まっていますが、地球の長い歴史のなかではこんなことが何度あったでしょう」と、米ロスアラモス国立研究所の宇宙科学者ジョフ・リーブス氏は問う。

「今後どうなっていくかはまったく予想できません。わかっているのは、これまでと違う動きを見せているということです。つまり、科学的に興味をそそるということです」

(文 Maya Wei-Haas、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年2月6日付]

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