50歳を過ぎて、とにかくやるせない
脚本家、大石静さん
仕事、家事、育児と頑張ってきたつもりでした。でも、輝いている知人を目の当たりにすると、自分には特筆すべきキャリアもなく、病を経験して心身ともにヨレヨレ。子どもが巣立ち、ようやくひと休みと思えば、介護です。50歳を過ぎて、とにかくやるせない。(静岡県・女性・50代)
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私も生きてることがメチャメチャやるせないです。
なので、あなたのお気持ちはよくわかります。
しかし、考えてみれば、誰の人生も後半になって来ると、次第にやるせなくなってくるのではないでしょうか。それが人間の宿命です。
「輝いている知人」とありますが、輝いている知人は輝いている知人なりに、きっとやるせないと思いますよ。
では、"やるせない"という感情は、なぜ起こるのでしょうか。
人間も生物で、生まれ、成長し、次世代を育て、死ぬというプロセスは同じです。
あなたも仕事、家事、育児と頑張っておられた頃は、女性ホルモンもいっぱい出ていて若く瑞々(みずみず)しく体力があり、子供の日々の成長にも喜びがあり、仕事にも未来が見えたでしょう。
でも50代になると、女性ホルモンの急激な減少により、気力体力が落ち、病気にもなるし、見た目も衰える。
弱った体に身内の介護が押し寄せる。介護の問題はできるかぎり人の手を借りる方法を考えて、やるせなさのドツボにますます陥らないように頭を使ってください。
老いていく哀(かな)しみについては、すべての人が抱える感情だと認識し、私だけが辛(つら)いのだと思わないようにしましょう。
人はやるせなさの中で死んでゆく残酷な存在です。優雅で満ち足りた老後など、この世に存在しないと割り切ることです。
若くてピチピチで楽しい時間もあったのですから、この先、人生は重くなっても仕方ないと肝を据えることです。
しかし、ここからが本題です。やるせなくなってからわかる人生の真実もあります。
生きとし生けるものはすべて、衰えて朽ちるのだということを実感として知って、見えてくる世界もあるでしょう。
それが"成熟"です。若い者には絶対にわからない人生の見え方です。
やるせないのは本当によくわかりますし、私も同じですが、"成熟"に誇りを持って、背筋を伸ばし、毅然と生きていきませんか。
そしたら時々、この年齢もいいもんだと思えるかもしれません。
[NIKKEIプラス1 2019年2月16日付]
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