どん底から広げたESG経営 三菱ケミカル・小林氏三菱ケミカルHDの小林喜光会長×一橋大学の伊藤邦雄特任教授

MOSについては現在、サステナビリティー、ヘルス、コンフォートの3つの分野で、貢献度を数値化する当社独自の指標を定め、具体的な取り組み内容と目標達成度を毎年評価している。ヘルスの分野ではワクチンの提供や健康関連製品・サービスの売り上げなど、コンフォートでは顧客満足度のほか、女性管理職比率などを含む社員の働く環境の改善も、それぞれ項目に入れている。さらに16年度からは各指標が、SDGsが掲げる「飢餓をゼロに」「つくる責任 つかう責任」など17の目標とどう関連するかも明示した。

小林会長(右)と伊藤特任教授

3つの軸のうち、MOTについてはR&D(研究開発)とM&A(合併・買収)のバランスに腐心してきた。中長期的な競争力の向上にはR&Dが不可欠だが、時間や人手がかかる。一方、M&Aは5~10年の時間軸で収益を引き上げるのには有効だが、相手先企業をどう統治するか、ガバナンスの高度化が求められる。

また、技術を社内で囲い込み、ブラックボックス化する(クローズ)か、それともオープンにして社外の企業や研究機関と連携して標準化を目指すか、という対立軸もある。当社ではオープンシェアードビジネスといって、ビジネスの全工程でクローズとオープンを戦略的に組み合わせ、製品開発の効率化を目指してきた。

3つ目の軸である収益面を評価するMOEでは、伸ばす事業と撤退すべき事業の「選択と集中」を徹底。社長就任以来、撤退した事業は約6000億円規模。一方、M&Aで1兆4500億円の売り上げを上乗せすることができた。

面白いのはMOE(連結営業利益)とMOS(目標達成率)には正の相関がみられることだ。11~17年度の数値を比較したところ、営業利益の増加に伴い、達成率もおおむね上昇していた。MOSの取り組みは一時的なコスト増を伴うので、当初は負の相関もやむを得ないかと予想したが、高い意識をもってサステナビリティーを志向する部門は収益力も向上することを証明できた。

いま、日本企業を取り巻く環境は厳しさを増している。私は毎年1月、スイスで開かれる世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加しているが、ここ2~3年で印象に残ったのは『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏の18年1月の講演だった。AI(人工知能)やデジタル技術の飛躍的な進化により、民主主義に対抗するデジタル専制主義、資本主義に対するデータイズムが急速に力を付けているというのだ。

念頭にあるのは中国の台頭だ。中国やインドから米国に渡った大勢の留学生がこれから母国に戻り、AIやロボット、宇宙、バイオなどあらゆる技術で覇権を目指す。すでに日本は論文の数でも質でも中国に劣り始めているほか、強いといわれたものづくりでもシェアを落とす分野が増えている。デジタル化、人材の多様性と流動性、エリートの知的水準などにおいて、日本が圧倒的に劣後していることを自覚することがすべてのスタートだ。

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