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「ありがとうございました」で叱られた 今昔ことば考

立川談笑

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NIKKEI STYLE

「言葉遣い」のお話をします。言葉を扱う落語家ですから、何かと気にはしているのですが、なかなかデリケートな部分もあります。

もうお亡くなりになりました先代桂文治師匠のエピソードから。

いまの11代目文治師匠の、お師匠様ですね。常に和服姿です。ごく小柄で、頭は短く刈りそろえた白髪頭。頑固な江戸っ子の職人、植木屋か大工の親方というイメージがぴったりのお師匠さんでした。ねじり鉢巻きに腹掛け半纏(はんてん)ももひき姿で、キセルでもくわえてそうな。で、この文治師匠が楽屋でよく前座を叱ってました。

私は談志の弟子で立川流ですから、寄席には通ってないんです。さほど接点はなくて、ホール落語で何度かご一緒した程度の間柄です。なのに印象に強く残っているくらいですから、どこでも年がら年じゅう叱っておられたのでしょうね。

文治師匠が楽屋に入ると、前座がお茶を出します。「ごくろうさまです。先日どこそこの会ではお世話になりました。ありがとうございました」と立ち去ろうとします。そこで前座を呼び止めて「ちょっとぉ、おう。前座。いまおまえさん、なんて言った?」となると、いつもの叱言(こごと)のはじまりです。「そこへ座んな。いいかい、あんちゃん。『先日の落語会ではお世話になりました』ってそこまではいいよ。お世話になったのは先日なんだから。そのあとの『ありがとうございました』の『ました』ってのはどういうことだい? ありがたいなあとそのとき感じて、いまはありがたいと思ってないの? そうじゃないだろ。だったら『ありがとうございました』じゃなくて、『ありがとうございます』って言い方が本当なんだ」

「秋葉原」は「あきばはら」

文治師匠の小言は終わりません。

「本当だよ? 近ごろはさ、みんな『ありがとうございました』『ありがとうございました』。NHKのアナウンサーまで『ありがとうございました』。ありゃおかしいんだよ。『ありがとうございます』なのにな。目の前の家に住んでる人のことを『お向かいさん』だって。あれは正しくは『おむこうさん』。『むこう三軒両隣』って言ったんだ。『むかいさんげんりょうどなり』なんて誰も言わないだろ。向かいのウチじゃなくてむこうのウチだから『おむこうさん』」

「それからほら、練馬の方に行くと電車の駅にあるねえ。『こたけむかいはら(小竹向原)』だって。本当なら『むこうはら』なんだよ、『こたけむこうはら』。本来はね。駅の名前でいったら『あきはばら』なんて今はいうけど。あれも本当は秋葉(あきば)神社だとか、秋葉の原っぱだから『あきばはら』が本来。誰かが間違っちゃったんだな。『たかだのばば(高田馬場)』じゃないんだ。『たかたのばば』。にごらない……」

なぁんて小言はこの後も延々と続きます。当の前座さんは、ほかにいくらも仕事があるのにじーっと座ってその話が終わるまで身動きがつかないんです。で、周りの前座連中はっていうと、この様子を見ながら笑いをこらえてる。つまり、「こいつは新人で何も知らないから、文治師匠の地雷を踏ませてやったら楽しかろう」ってそういう魂胆ですよ。また、何かきっかけを作って例の小言が聞きたいなあなんて、そんな動機もあったんじゃないかと思います。

考えてみると、言葉は少しずつでも変わっていくものです。言葉は生き物ですから。それでも先代文治師匠なみに「今どきの言葉づかいは、なっとらん!」とお腹立ちの皆さんもまだまだいらっしゃるかもしれません。私の場合は、かなり柔軟になりました。

 たとえばよく話題になる「ら抜き」、「さ入れ」問題について。つまり今どきの「見れる」「出れる」、あるいは「見させていただく」などは、本来は「見られる」「出られる」「見せていただく」なのだというアレ。私自身は圧倒的に古い側なのですが、若い弟子たちには「どちらを使っても構わない。ただし、理解した上で自覚的に判断しなさい」と指導しています。無自覚に、なんとなく、ではいけない。なぜなら言葉を扱うプロなのだから。

そしてこの点、落語はとてもバランスが難しい。伝統芸能である以上、古い価値観を大切にしたい思いがある一方で、大衆芸能なのだから今なりの新しい価値観に寄り添うべきだという見方もまた同時にあるのです。ですから、結論は「落語家として、きみはどんな客層にアピールしたいのか」という自己演出の話になってしまいます。

「お召し物」が通じない時代へ

さてさて。そんなふうにして今どきの言葉に理解を示そうとしても、やっぱり引っ掛かるんですよ、我ながら。未練がましいけど。

「何を飲まれます?」「お昼はお食べになられました?」「現場には何時ごろ着かれます?」「意外に派手めな服を着られることもあるんですね」。こんな言い方、最近は当然のように耳にします。ま、いいんですよ。いいんですけどね。「召し上がる」って言葉は使わないのかなあ、と不思議になるのですよ。「いらっしゃる」「お越しになる」は、死語なのかと。敬語表現を「れる」「られる」または「お〇〇になる」ばかりで処理しちゃうのはモヤモヤします。

この分だとそのうち、衣服を指す「お召し物」なんて言葉は全く通じない時代も来るんじゃないか。いや、もはや通じない人たちは少なからずいるだろうな。

あと急激に使われなくなっていると実感するのが「ありません」の表現。気にしてみると、本当に驚くはずです。みんな「ないです」に置き換わっています。ああ、きりがありませんね。

最後にひとつ。大声を出すという意味の、声を「あらげる(荒げる)」。あれって、「あららげる(荒らげる)」が本来なんですって。ご存じでした? 近ごろちょいちょい「あららげる」との表現を見かけると違和感を抱いていたのに、あれは本来に戻そうということだったんですね。ある調査では現代人の8割が「あらげる」なんだとか。私、長らく「あらげる」派でした。なんとまあ、お恥ずかしい。あららげる派に宗旨変えしようかなあ。でもやっぱりモヤモヤするなあ。

立川談笑
 1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。

これまでの記事は、立川談笑、らくご「虎の穴」からご覧下さい。

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