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大型補強はもう古い データ活用が変えるプロ野球

2019/2/27 日経産業新聞

日本ハムは若手主体で強いチーム作りに取り組んできた(2月9日、春季キャンプの紅白戦)=共同

日本のプロ野球がデータ分析で大きく変わろうとしている。試合中の戦術はもとより、チーム編成や球団経営など高い次元の戦略決定に使う動きが盛んだ。野球のデータ分析を手掛けるDELTA(東京・豊島)の岡田友輔代表と、同社のコーディネーターとして活動する元楽天イーグルス投手の川井貴志氏に最新動向を聞いた。

DELTA代表 岡田友輔氏

――野球界ではどのようにデータ活用が進んでいますか。

「米・大リーグでセイバー指標(メトリクス)を採り入れ始めてから、日本のプロ野球に入るまで約10年以上のタイムラグがあった。最近ではその差は圧縮され、データ活用で物事を決めている球団も増えている。いまや球団経営や編成にもデータが欠かせない時代だ。試合に新しい戦術を導入する際、かつては検証に20年ほどかかっていたが、現在はデータ分析によって5年にまで短縮された」

「米プロフットボールNFLなどでもデータ分析が進んでいる。特にスーパーボウル常連のニューイングランド・ペイトリオッツはデータ分析が先進的で、素晴らしい実績を残している。知能指数テストなどドラフト戦略も独特だ」

――データ活用による選手への影響は。

「ベテラン選手のフリーエージェント(FA)契約の規模が小さくなってきた。逆に、活躍し始めてから2、3年目の若手選手と長期契約をする商習慣が大リーグで定着している。過去のデータから選手のピークは20代中盤と分かるようになり、チームの屋台骨になりうる若手の方が投資効率がよいという判断だ。プロ野球なら北海道日本ハムファイターズが典型例だ」

「日本では野村克也氏のID野球に代表されるように、選手の攻め方など戦術向けのデータ分析は細やかだ。一方で大リーグはもう一段高い視点で戦略的なデータ分析を使うところが違い、編成も含めた組織的なデータ活用ではまだ発展途上だろう」

――ファンの野球の見方も変わりました。

「2002年にプロ野球中継のスタッフを始めた頃はディレクターから『データは画面を汚す』と言われたことを覚えている。選手の画と臨場感だけ伝えればいいと言われた時代だが、今はあらゆるデータがとれるようになり、ファンも分析を楽しむようになった」

――企業内でデータ活用を進めるにはどうすべきでしょうか。

「大事なのは方針を徹底させるリーダーシップ。そして現場と仲介するコミュニケーションをとれるアナリストが必要だ。現場と折り合い、数字の意味を解説できる存在が欠かせない」

「各人の主観だけで話し合っても問題を共有する意識は生まれず、自分たちの位置づけや特性などをデータで客観的に把握することで次の手を打つ準備が可能になる。ビジネスでもデータの活用で仮説、検証のサイクルを早く回せる」

元楽天イーグルス投手 川井貴志氏

――現役投手時代からデータ分析に積極的だったそうですね。

「自分が登板した試合の動画をパソコンで研究して翌日の練習メニューに反映していた。打たれた時に何が原因で次にどう対処すべきかを知りたいという意識があった。契約交渉ではそのための仕組みを作ってくれと球団に働きかけてきた」

――データ分析について周囲の雰囲気はどうでしたか。

「以前は選手でパソコンを使って研究する人はほとんどいなかったと思う。ただこの数年で状況は大きく変わってきた。データや動画が入ったタブレット端末を球団が選手に渡し、研究や分析の文化が根付き始めている。あえてデータを見ないという選手もいるが、球団としては『見える化』を進めている」

――引退後は球団の「チーム戦略室」に所属しました。

「当初は2軍で打撃投手をしていたが、声をかけてもらった。今まで感覚でやってきた部分を数値化しようという組織だ。私は投手のデータを分析していた。現在の技術では球の回転数や軌道などを詳細に集計できる。データを基に選手やコーチ、トレーナーと対話する仕事だ」

「数字の持つ意味を読み解き、判断基準を作るためにとにかく勉強した。例えば投球の質を大きく左右する、球の回転数が落ちてきた時に何があったのか。単なる疲労か、故障なのか。数字と選手のパフォーマンスをつなげていく」

――現場との対話で気をつけていた点は。

「何より留意したのは『選手にとってプラスになるかどうか』だ。悪いデータだけを見せると、選手が悩んでスランプに陥りかねない。悪いデータは必ず改善方法と併せて示していた。選手をよくするのが自分の仕事。相手の人柄や性格に最適なコミュニケーションを模索してきた」

――プロ引退後、珍しいキャリアを歩んでいますが今後は。

「データに関する道具や環境が変わって、引退後も野球と楽しく向き合えている。コーチやトレーナーだけではカバーしきれない分野を見る人材がもっと出てきてほしい。現在は選手の体やパフォーマンスをもっと理解するために、スポーツ科学を一から学び直している」

◇   ◇   ◇

■技術生かせる人材の活用がカギ

野球は伝統的にデータが重視されるスポーツだ。1球1球の動向や打者の対応がスコアブックに記録され蓄積されている。そのデータを基に投資効率を高めたチームを編成し、独自の戦略・戦術を打ち出す手法が「セイバーメトリクス」だ。

データ分析が花開いたのが米国だったのは、野球の生まれ故郷であると同時にIT(情報技術)の本場でもあるからだ。

2000年代初頭、米メジャーリーグでは有望選手をフリーエージェント(FA)制度を使って集められる財力がチームの成績を左右するとされていた。その流れに一石を投じたのがセイバーメトリクスだ。資本力に乏しい球団が戦術やチーム編成の妙で勝ち上がる様は映画「マネーボール」で描かれ、世の中に広まった。

技術革新は収集できるデータの種類や量を飛躍的に増やし、分析手法も高度化する。問われるのは球団や企業の置かれた環境や選手や現場の内実に精通したうえで、先端技術と適切に橋渡しできる人材を確保できるかだ。

メジャーリーグではデータ分析の能力とスポーツ科学の知識を組み合わせ、選手やコーチに的確なアドバイスをする「ピッチング(バッティング)コーディネーター」が注目を集めている。DELTA(東京・豊島)の岡田友輔代表によると、各球団がコーディネーターの育成を競っているという。技術だけで成果は出せない。技術を生かせる人材の活用は、日本企業に共通する課題でもある。

(北爪匡、小柳優太)

岡田友輔
大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフなどを経て2011年に独立、DELTA創業。野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。千葉県出身。43歳。
川井貴志
大学卒業後、1998年に千葉ロッテマリーンズに投手として入団。2006年に東北楽天ゴールデンイーグルス移籍、16年に現役引退。現在はDELTAでコーディネーターを務める。42歳。

[日経産業新聞2019年2月11日付を再構成]

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