生活者が長期応援株主に 企業を支えよう(澤上篤人)さわかみ投信会長

日経マネー

澤上 世界中の株式市場では長期投資が片隅に追いやられているのが現状。その横で、毎年の成績を追い掛ける資金運用や短期のディーリングが主流となっており、マクロ指標に対してはやたら敏感に反応するようになった。

 一方、個々の企業を丁寧に調査・分析した上で投資判断を下す、株式投資本来の姿はどこかへ行ってしまった。それでいて、株主としての注文はやたらきつくなっている。こんな株式市場の状況で、企業はどこまで長期視野の経営ができようか。長い目で見ると、企業経営の短期視野化は経済や社会にとってマイナスでしかない。

 どうすればいいのか? やはり、生活者株主の登場だろう。年金運用などが毎年の成績を追い掛けるのなら、それに対抗して一般生活者が長期の応援株主となって企業経営を支える図式があってもいい。

草刈貴弘氏(左、撮影:竹井俊晴)

草刈 マッキンゼーのリポートでも、長期的経営の企業の方が短期的思考の企業と比較して売上高・利益・時価総額・新規雇用においてそれぞれ長期的に上回ったことが指摘されています。やはり、企業は長期的思考の方が成長する可能性が高いということが示されています。

 だからこそ重要になるのが株主の目線なんですよね。近年のように株主の権利や意見が重要視され、その動向に経営者側も影響を受けやすい状況では、株主の考え方によっては企業価値に大きく影響してしまうことがある。短期的に株主価値の最大化ばかりを狙う株主が増えてしまうと、企業は目先の利益ばかりを追い掛けることになり、既存のビジネスを改良し維持することが目的となるようなつまらない経営になってしまう。時代の流れや競合の攻勢に全く対処できずに衰退し、その企業のステークホルダーでもある従業員、供給業者、地域経済も疲弊する。そういった意味では、あらゆるステークホルダーが応援株主になるという考え方も必要ですよね。

東京を長期投資市場に

澤上 資本主義の限界とかいわれるのも、年金など機関投資家やアクティビスト連中が株主の利益を追い求めるあまり、企業を配当金を吸い上げたり株高を強いたりする道具のような扱いにしてしまったからだ。企業の社会的な存在理由は本来、価値の創造つまり社会に富を生み出す役割を果たすことだ。それが、株主の利益追求のみに絞り込まれては、経済も社会もガタガタになってしまう。

 このままではマズイと誰もが思う。しかし、ブレーキをかけようがない。最近、「ESG(E=環境、S=社会、G=ガバナンス)投資」が唱えられるようになったのも、その反省からだが、果たしてどこまで効果があるのだろうか。

 そこで、われわれは日本の個人マネーを長期投資に誘って、東京を世界の長期運用市場にしてしまおうと提唱している。880兆円もある個人の預貯金の一部、例えば100兆円ほどが長期の応援株主に向かうだけでいい。まずは、われわれと一緒に長期の株式投資を始めてもらう。やってみれば、すぐ預貯金よりはるかに有利な財産づくりができると実感できる。だったら、もっともっと長期投資しよう、と広く世の中の預貯金マネーに訴えることができる。

 この流れが加速すれば、企業にとっては長期視野の経営に最大の支援材料となる。そういった長期投資家に支えられた東京株式市場の姿が浮上してくると、短期の投資家にへきえきした世界の企業が東京での上場を目指すことになる。気が付いたら、東京が世界の長期投資のメッカとなっている。どうだろう、こんな展開は?

澤上篤人
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2019年3月号の記事を再構成]

これまでの「カリスマの直言」の記事はこちらからご覧ください。

日経マネー 2019年 3 月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 750円 (税込み)


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