週末レシピ 黄身だけ、混ぜ方色々、究極の卵かけご飯
新鮮な生の卵を炊きたてのご飯にかけ、そこに若干の調味料を足すだけという至極シンプルな「卵かけご飯」。数年前には「TKG(Tamago Kake Gohan)」と略され、専門のレシピブックが発売されたり、専用のしょうゆが発売されたりするほどの一大ブームを巻き起こした。
シンプルなだけにそれぞれの好みが分かれ、「これぞ最高の卵かけご飯だ!」という食べ方に関しておのおのが主義主張を持っていること。そして、ご飯も鶏卵もほかを受け入れる包容力を備えているためアレンジの幅が無限大であること。この2点がTKGブームを巻き起こした要因と言えるだろう。黄身だけ派、全卵そのまま派、かきまぜ派などいくつかのTKGの派閥があるようだが、その中でも比較的新しいものとして注目を浴びたのが、「ふわふわタイプ」である。
今回は、このふわふわタイプをさらにおいしく仕上げるコツと、卵かけご飯に適した調味料についてご紹介したい。
新鮮な卵 1個 / ご飯…1膳 / 塩 小さじ8分の1(0.6グラム~1グラム弱) / しょうゆ 小さじ1
(1)常温に戻しておいた卵を卵白と卵黄に分ける
(2)卵白に塩を加え、七分立てくらいにかき混ぜる
(3)ご飯にしょうゆを回しかけ、コメ粒を潰さないように全体に混ぜ合わせる
(4)(3)を茶わんに盛り、その上に(2)で泡立てた白身を盛り、最後に(1)の卵黄をのせる
※塩は卵白の泡立ちを早くするために入れるので、ほんの少量でOK
※卵白に塩味がつくほど入れてしまっては入れすぎです
ポイントはしょうゆを先にご飯に混ぜることである。こうすることで、ご飯はしょうゆの塩味と酸味、うま味でむらなくコーティングされる。その結果、卵の味とのコントラストが常にはっきりと感じられ、黄身の濃厚さ、白身の甘さをより強調して感じさせてくれるのだ。
もちろん白身のふわふわな食感も一役買っている。通常のぬるっとした状態の白身と比べて、白身が口の中に滞在する時間が長いため、白身そのものの味をしっかり感じることができる。さらに、口どけの影響で、白身が消えたあとの黄身の味がより一層際立つのだ。
また、「黄身だけ派」の人の中には白身のにゅるっとした食感が苦手という人も一定数いるようなのだが、そういった人でもこのふわふわ卵かけご飯なら卵のおいしさを余すところなく堪能することができる。
卵かけご飯を作る際に気を付けてほしいのが、その卵の衛生環境と鮮度である。よく「日本でしか卵かけご飯を食べない」と言われているが、これは一部間違っている。ご飯に生卵をかけるという意味では日本独自の食文化だが、卵を生で食べたり飲んだりする文化は、海外にも存在する。
その分かれ目は、卵の衛生管理がしっかりしているかどうか、鮮度の良い状態で流通できるかどうか、の2点だ。なぜなら、卵は鶏の腸内に常在しているサルモネラ菌の付着の可能性が非常に高く、鮮度管理や衛生管理が整っていない場合は、生で食べると食中毒を発生させる危険性があるのだ。そのため、この2点があまり整備されていない国では、食中毒を防ぐために十分に加熱して食べることが推奨されている。
日本は、洗卵、検卵、選別などの厳格な衛生管理のもと出荷された卵が、早ければ採卵したその日のうちにスーパーマーケットの店頭に並ぶという高速の物流網が整備されていることから、卵を生で食べても比較的安全で、卵かけご飯というメニューが根付いたのだと考えられる。
なお、卵の新鮮さを見分ける方法は2つあり、1つは、卵を割った際に白身がべたっと広がらず、黄身を囲むように盛り上がっていること。もう1つは、黄身そのものが盛り上がっていることである。なので、いきなりご飯の上に割りいれるのではなく、できれば別のさらに割ってみて、鮮度を確かめてから使用するとより安全だ。
さて、話を元に戻そう。今回はふわふわタイプの卵かけご飯をご紹介したが、私が周囲のおいしいもの好きを標榜する人たちにヒアリングしただけでも、いくつかの系統に分かれることが分かった。
・全部混ぜる派:ご飯に卵を割りいれ、ご飯とともに全体をよくかき混ぜる。もっともオーソドックスなタイプ。さらっと食べられる。
・白身は混ぜて黄身はそのまま派:白身はご飯と混ぜておいて、黄身だけをご飯の上にのせるタイプ。白身にコーティングされたご飯はとろりとした食感を醸しだし、黄身のとろりとした食感との相乗効果で、全体的に濃厚な印象となる。
・黄身だけ派:白身は入れずに黄身だけをご飯の上にのせる。ご飯全体に黄身が行き渡るようにご飯1膳に対し卵を2個使う場合も。ひたすら濃厚な味わいに。
・かきまぜ後のせ派:卵だけをあらかじめかき混ぜておいて、ご飯の上からかけるタイプ。ご飯と一緒にかき混ぜるのとは異なり、卵のぬるっとした食感がご飯を包み込む。つるつるとした喉ごし。
シンプルな卵かけご飯では、どんな調味料を使うかということも味に大きな影響を与える重要なファクターとなる。一般的にはしょうゆが主流だが、実はそれ以外にも卵かけご飯にぴったりの調味料があるので、ご紹介したい。
・塩+ゴマ油:塩をひとつまみ振って、そこにゴマ油を少量かける。全体を混ぜて食べると、なんとなく中華風な雰囲気になる。ゴマ油の香ばしさと塩のしょっぱさがあとを引く味わい。塩はしょっぱさがやや強めの、粒が少し大きめのタイプがお薦め。食感のアクセントにもなる。
・塩+オリーブオイル+チーズ:塩をひとつまみ振って、香りがよく少しピリッとするタイプのエクストラバージンオリーブオイルを少量かける。そこにすりおろしたパルメザンチーズをかけると、口の中でチーズリゾットのような味わいに。
・しょうゆ+バター:あつあつのご飯に生卵をのせ、そこにしょうゆをまわしかけ、バターをひとかけのせる。乳脂肪が入ることで非常にまろやかな味わいに。ご飯に先にしょうゆを混ぜた場合は、常温に戻したバターだけをのせる。
・ポン酢:しょうゆの代わりにポン酢を回しかける。ポン酢の酸味で非常にあっさりとした味わいに。今日はちょっとさっぱりと食べたいという時にお薦め。
・具材入りのラー油:具材が入ったタイプのラー油を卵の上からひとまわし。卵の影響でまろやかになった辛味と、あとから口に広がるうまみが癖になる味わい。
・だし入り味噌:加熱してアルコール分を飛ばした日本酒にだし入り味噌を溶かしてペースト状にしたものをかける。いわば「猫マンマ(味噌汁にご飯を入れたもの)」のようなほっとする味わいに。
・番外編:卵かけご飯焼き:フライパンにサラダ油をいれて熱し、卵とご飯と調味料をよく混ぜ合わせたものを入れて焼き上げる。ひっくり返すのが難しいので、途中で蓋をして蒸し焼きにする。卵とご飯が一体化して、オムライスとはまた違った味わいに仕上がる。
卵かけご飯と一口に言っても、卵とご飯の合わせ方だけでも複数ある上に、そこに合わせる調味料のバリエーションは非常に幅広い。そして今回は紹介していないが、納豆やキムチ、プロセスチーズ、めんたいこなど、トッピングする具材も枚挙にいとまがない。組み合わせ無限大、つまりおいしさ無限大なのが卵かけご飯の最大の魅力だ。ぜひ、色々試しながら、自分ならではの至高の卵かけご飯を見つけてみてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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