定年退職後も働く人 働かない人より健康で長生き
死亡や認知機能の低下が2年遅くなる
定年退職といえば、これまでは60歳が一般的でしたが、今は、それ以降も働く人が増えています。慶應義塾大学の岡本翔平氏らは、日本人男性を対象として、60歳以降も仕事を継続している人とそうでない人の、死亡と認知機能低下、脳卒中、糖尿病のリスクを比較する研究を行いました。その結果、就労が健康に利益をもたらす可能性が示されました。
就労者のほうが死亡、認知機能の低下、脳卒中が少ない
この研究は、一般に公開されている全国高齢者パネル調査の情報を利用しています。岡本氏らは今回、分析対象を60歳から75歳までの男性にしました。この年代の男性に限定したのは、60歳以降に賃金労働をしている女性は男性に比べかなり少なく、男女問わず75歳を超えて働いている人も非常に少なかったからです。
条件を満たした男性1288人(就労者644人と非就労者640人)について、1987年の初回調査から最長で15年後までの、死亡、認知機能の低下、脳卒中、糖尿病の発生の有無を調べました。
非就労者、就労者のなかで、追跡期間中に死亡、認知機能低下、脳卒中、糖尿病(これらを「イベント」と呼びます)を経験していた人の割合を比較すると、就労者のほうが死亡した人は少なく、認知機能の低下を経験した人と、脳卒中を発症した人の割合も少なくなっていました。ただし、糖尿病発症者の割合には差がありませんでした(図1)。
対象となったこれら2群の人々の特性を比べると、いろいろな項目に差が見られました。たとえば、予想されたように、調査時点で健康状態が悪いと回答した人の割合は、就労者が7%、非就労者は17%で、後者のほうが高くなっていました。そこで、分析結果に影響を及ぼすと考えられるさまざまな要因を考慮した上で、就労者と被就労者を比較し、働き続けることが健康に及ぼす効果を推定しました。その結果、4つの評価項目の全てに、就労によるイベント発生までの時間の延長が認められました(表1)。
なお、今回分析対象となった就労者644人のうち、被雇用者は83人に留まり、561人が自営業者でした。そこで、被雇用者と自営業者に分けて、それぞれ非就労者と比較したところ、自営業者のほうが余命は長くなっていたものの、糖尿病または脳卒中の発症を遅らせる効果は、被雇用者のみに認められることが明らかになりました。
論文は、Bulletin of the World Health Organization誌2018年12月号に掲載されています[注1]。
[注1]Okamoto S, et al. Bull World Health Organ. 2018 Dec 1; 96(12): 826-33.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2019年2月6日付記事を再構成]
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