IT大国スイスでインターン ~多様性認める文化、人材引き寄せるAIの未来(5)

人工知能研究会/AIR

人工知能研究会/AIR

はじめまして。東京大学大学院でコンピュータビジョンを専門に研究している兼平篤志と申します。コンピュータービジョンというのは人工知能(AI)と呼ばれているものの中の一つの分野で、画像や動画など視覚的な情報を自動で処理する、名前の通り「コンピュータの目」を作ることを目的としています。例えば、自動運転や医療診断補助、監視カメラの異常検知などにも使われている技術です。

私は、この分野の代表的な研究所であるスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH)のComputer Vision Laboratory(CVL)と、中国・北京にあるMicrosoft Research Asia(MSRA)のMultimedia Search and Mining Groupにインターンとして在籍していました。そこでの経験や、その中で感じたスイスと中国という異なる2国の側面をITやAIという視点からお伝えできたらと思います。

コンピュータサイエンス分野で世界トップクラス

ETHから見えるチューリッヒの街並み

ドイツ、イタリア、フランス、オーストリアに囲まれたアルプスの中心に位置する国。そんなスイスの産業と聞いて多くの人が連想するのは観光や酪農、若しくは時計などの精密機械や金融などでしょう。しかし、最近では特にITに力を入れているそうで、多くのIT企業が拠点を置くヨーロッパ1のIT大国になっています。スイスの経済的中心都市チューリッヒにあるETHもコンピュータサイエンス分野における大学ランキング( https://www.theguardian.com/higher-education-network/2018/feb/28/qs-world-university-rankings-2018-computer-science)では9位になるなど、世界トップレベルの研究を行っています。私が7ヶ月間所属した所属したCVLも、コンピュータービジョンの分野ではとても有名な研究室です。

そこでの滞在中に私が強く感じたのはヨーロッパの合理主義、効率主義的な考え方でした。研究は世の中に存在しない何かを生み出すことが目的であり、当然ですがやった事が必ずしも結果に結びつくとは限りません。特に最近ではAI関連の研究開発は競争がとても激しく、技術の移り変わりが速い分野の一つです。そのような先が見通しづらい状況の中でも、偶然に任せるのではなく、合理的、効率的に成果が出るような工夫がされていたことがとても印象に残っています。

「量より質」「多様性」を重視

例えばCVLでは世界中から多くの優秀な若手研究者を雇い、学生と2、3人のチームを組んでプロジェクトを進めるという方法をとっていました。学生はその分野の最先端の人からマンツーマンで指導してもらうことができる一方、指導した学生が結果を出せば指導した側の成果になるので、双方にとってメリットがあり成果が出やすい制度といえます。同時に学生は知識や技術そのものではなく、研究を通して新しいアイデアの出し方や問題解決のノウハウ等、より普遍的な能力を身につけることができるという教育面でのメリットもあります。

また、同じプロジェクトの中でも多様性を重視して、基礎研究と応用研究を同時に取り組んでいるという点もとても興味深く感じました。これによって、実応用での課題を解決するための新しい理論が生まれたり、新しい理論によって初めて可能になる応用が生まれるなど、相互作用によって新しい視点が生まれやすくなるという利点があるそうです。

研究室のメンバーでスキー・スノーボード

既にあるアイデアを組み合わせることや、別の視点から見ることによって新しいアイデアが生まれることは多くあり、それを偶然ではなく意図的に産み出すような工夫をしていることには驚かされました。

そのような工夫のおかげか研究者の生産性はとても高く、皆、通常は遅くとも17時、週末は15時には帰宅するなど、日本と比べ労働時間は短いながらも、しっかりと結果を出していました。プロジェクトの進め方の工夫であったり、グループ編成での個人個人の能力の組み合わせ方の工夫であったりと、質的な部分での工夫によって量を補うという考え方は、ヨーロッパらしさを感じるとともに、とても参考になり見習うべき所だと感じました。

IT発展に地理的・文化的な背景

なぜ、ヨーロッパの中でもスイスがとりわけITが発展したのでしょうか。これには上で述べたような効率性を求める考え方に加え、地理的・文化的な背景が強く関連しているように思えます。

スイスは人口が多いわけでも、農業に使える土地が多くあるというわけでもなく、資源が豊富というわけでもありません。歴史的に周辺国と渡り合って行くためには、人と資本を集中させて差別化を測る必要があり、それが精密機械や金融であり、今のITなのだそうです。

友人の家で夕食

更にスイスは5つの国に面し、地域によって異なる4つの公用語があります。必然的に、住んでいる人はマルチリンガルになり(スイス鉄道の駅員になるためには最低3ヶ国語話せる必要があるという話も聞きます)、自ずと人種・国籍などにとらわれず、多様性を尊重する考え方をすることが自然となります。そのような外国人にとっての住みやすさが、優秀な人材を集めやすい理由の一つとなっているのだろうと思います。

実際、私が所属した研究室でも皆出身はバラバラで、学生・スタッフ合わせて50人ほどいる大規模な研究室でしたが、同じ国籍の人を探すのが難しいほどでした。そういった環境のおかげで、私自身も溶け込みやすく、研究室の他のメンバーとクロスカントリーリレー大会に参加したり、スキー・スノーボードに行ったりするなどして、様々な人に仲良くして貰ったのを覚えています。

地理的・文化的な背景によってもたらされる、スイスという国の特殊な環境が、ITやAIが発展する国としての土壌を作っているのでしょう。

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