楽園に残る馬との暮らし 南太平洋マルケサス諸島
マルケサス諸島(マルキーズ諸島ともいう)は、海に落ち込む急峻な緑の峰々、滝がある谷、目をみはる尖った岩で知られる。豊かな自然の遺産に加え、マルケサスの人々が守る伝統文化がタトゥー、舞踊、言語、乗馬だ。7年前から南太平洋の仏領ポリネシアに住むジュリアン・ジラルド氏は馬乗りたちの物語を切り撮った。
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マルケサス諸島は、タヒチと同じ仏領ポリネシアに属するが、ターコイズブルーの礁湖は見当たらない。12の火山島のうち6つの島に人が住んでいる。ジラルド氏が撮影したのは、ウア・フカ島のボヒ・ブラウン、ヒバ・オア島のルシアン・"パコ"・パウテヘアとジェレミ・ケフエヒトゥの3人だ。ちなみに、ヒバ・オア島は、タヒチを描いた画家ポール・ゴーギャンが晩年を過ごした島として知られる。
ウア・フカ島に馬が導入されたのは19世紀半ばのことだ。フランスの海軍将官、アベル・デュプティ=トゥアールが贈り物としてチリから運んできた。それを島民たちが長い年月をかけて飼い慣らし、道なき谷、急斜面、高い尾根を越える完璧な移動手段とした。馬のおかげで、島民は野生化したヤギやブタを狩る範囲を大きく広げることができた。狩った獲物は、伝統の「ウム」という地中のオーブンで時間をかけて調理される。
肉に加えて、島にはパンノキ、ココナッツ、マンゴー、バナナなど豊富な熱帯の果実、さらには海の恵みがあり、マルケサスの島民たちは長く「土地の豊かさを享受してきました」と、写真家のジラルド氏は話す。車が持ち込まれ、道路が建設された今では、「ほとんどの島民が日本製のピックアップトラックに乗って店に行き、米国産の米やパスタ、冷凍チキンを買いますが」とジラルド氏。それでも、迫りくるグローバル化に抗い、何世代も続いてきた馬との文化を守ろうとする人たちが今でもいると、ジラルド氏は言う。
ウア・フカ島では、住民の数より野生の馬の数の方が多い。後ろ脚で立った馬のタトゥーを背中に入れているボヒは、こうした馬を捕らえて手なずけ、訓練するのに特にたけている。ウア・フカ島に暮らすボヒは近くのゲストハウス「マナ・トゥプナ・ビレッジ」で働いたり、仏領ポリネシアの主な輸出品であるココナッツオイルの原料、コプラ(乾燥させたココナッツ)を作ったりしながら、空いた時間に厩舎の手入れをする。旅行者を馬に乗せ、乾燥した高地でのトレッキングに連れて行くこともある。
ビバ・オア島で牧場を経営するパコと、ジェレミがホーストレッキングで見せてくれるのは、自分たちが島の何を知り、何を愛しているかだ。プルメリアやタヒチの国花ティアレの香りが漂う緑豊かな眺め、「ティキ」と呼ばれる太古の石像があり、マナ(霊的な力)に満ちあふるメアエ・リポナの聖地、そして尾根の頂から見る大海原。未知の地平線へと恐れずに馬を駆って挑む彼らの姿は、まさにマルケサス最後の馬乗りのようだった。
次ページでは、マルケサス諸島の人々の生活の一部となっている馬との日常を9点の写真で紹介しよう。
(文 AMY ALIPIO、写真 JULIEN GIRARDOT、訳 高野夏美)
[ナショナル ジオグラフィック 2018年12月25日付記事を再構成]
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