酒飲みならほぼ誰もが経験し、二度と経験したくないと思う「二日酔い」。この二日酔い、飲み過ぎによって起こるのは間違いないが、実は謎が多い。その日の体調などに影響されるのはもちろん、お酒の種類によってもなりやすさが変わることがある。そこで今回は、酒ジャーナリストの葉石かおりが、二日酔いの原因と対策について、アルコール問題全般に精通する久里浜医療センターの院長、樋口進さんに話を聞いた。
取材を通して、二日酔いは「プチ・アルコール離脱症状」かもしれないことなど、興味深いことが分かった。最後に、二日酔い防止のコツや、なってしまったときの意外な対策についても聞いたので、この機会に二日酔いの知識をたっぷり仕入れ、次の飲酒の機会に生かしてほしい。
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本シリーズを基にした書籍『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社)が多くの人に読まれるようになったこともあり(ありがとうございます!)、居酒屋などで声をかけていただいたり、インタビューを受ける機会も増えた。
こうした際によく聞かれるのが二日酔いについてである。二日酔いの予防策はもちろん、「実際に二日酔いになったらどうしたらいいの?」という事後の対策もよく聞かれる。
なぜ、多くの酒飲みが二日酔いに興味があるのかといえば、それは二日酔いには分からないことが多いからだろう。実際、周囲の左党の話を聞いていても、人によって二日酔いの原因が異なっていることが多い。例えば、その日の体調、空腹の度合い、アルコールの飲み合わせ、チェイサーの有無をはじめ、なかには蒸留酒または醸造酒など酒の種類によって同じ純アルコール量でも二日酔いになると話す人もいる。確かに私自身、先週は同じ量を飲んでもびくともしなかったのに、今週は翌日使い物にならないなんてときもある。
もちろん二日酔いの原因は「飲み過ぎ」ということはイヤと言うほど理解している。だが二日酔いには、私たちがまだ知り得ない深い謎が隠されているのは間違いないだろう。樋口先生、どうなのでしょうか?
■二日酔いの原因は驚くほど分かっていない
「二日酔いの主たる原因は、おっしゃる通り、飲み過ぎが原因です。しかし実のところ、二日酔いの原因、それにメカニズムは驚くほど分かっていません。酔いのメカニズムは非常に複雑なのです」(樋口さん)
「とはいえ、有力な説はいくつか出ています。以下に触れたような、『軽度の離脱症状』『ホルモン異常・脱水・低血糖』……などです。これらの単独の要因により二日酔いが起こるのではなく、これらの要因(いまだ判明していない未知の要因も含む)が複雑にからみあって、二日酔いになるというのが現時点で最も適切な説明といえるでしょう」(樋口さん)
●軽度の離脱症状
●ホルモン異常・脱水・低血糖など
●酸塩基平衡のアンバランスや電解質の異常
●炎症反応の亢進(こうしん)
●睡眠や生体リズムの障害
●アセトアルデヒドの蓄積
●胃腸障害
●酒に含まれるコンジナーの影響
●微量に含まれるメタノールの影響
※厚生労働省 e-ヘルスネット「二日酔いのメカニズム」(樋口進)を基に作成
二日酔いは「プチ・アルコール離脱症状」?
樋口さんはこのように列挙してくれたが、恥ずかしながら、ほとんどの項目が理解不能である。特に分からないのが1番目の「離脱症状」である。これって、いわゆるアルコール依存症の患者の方が、お酒を控えると起こすといわれる離脱症状、もしくは禁断症状と呼ばれるものですか?
「そうです。その離脱症状です。二日酔いは『軽度のアルコール離脱症状が原因』といわれる説があるのです」と樋口さん。えっ?! 先生、サラッと口にされましたが、「アルコールの離脱症状」って、アルコール依存症の方の特有の症状なのではないのでしょうか?
「アルコール離脱症状は、確かにアルコール依存症の方が経験するものです。アルコールを飲むと脳は『機能変化[注1]』を起こします。機能変化を起こした脳は、元に戻ろうと働くのですが、この際に出る典型的な症状が、吐き気、動悸(どうき)、冷や汗、手が震えるといったものです。こうした不快な症状が俗に言う『禁断症状』と呼ばれるものです。アルコール依存症の方はこの禁断症状に耐えることができないため、アルコールを終始飲み続けることで、脳が機能変化を起こしっぱなしの状態にあるのです」(樋口さん)
[注1]ここで言う「機能変化」とは、脳の神経機能などに作用し、マヒするなど変化を起こすことを指す。