BtoB企業はなぜ学生から敬遠されるのか?
ホンネの就活ツッコミ論(83)
今回のテーマは「BtoB企業の採用」です。学生は何となくBtoB企業が優良、ということはわかっています。ところが、いざ就活が始まるとごく一部(それも知名度の高い企業)にしか学生は集まりません。では、なぜBtoB企業は採用がうまく行かないのでしょうか。理由は5点あります。
理由1:自社の良さ・業界の展望をきちんと伝えられていない
BtoB企業は消費者(学生含む)との接点がほぼない(もしくは、全くない)特徴があります。そのため、自社の良さや業界の展望なども含めて丁寧に伝える必要があります。学生はその大半が大手企業を志望します。実は学生が言うところの大手企業とは「知名度が高いBtoC企業(とごくごく少数のBtoB企業)」を意味します。
この原稿を書く直前、法政大生から就活相談を受けていましたが、村田製作所・信越化学工業のことを知りませんでした。別の学生(確か関西の学生だったと思いますが)は、富士電機や明電舎など重電業界の話をしたところ、「石渡さんはそういう中小企業を勧めたいのでしょうけど、僕は大手企業に行きたいのです」と非難されてしまいました。重電大手8社に入る富士電機と明電舎がこの学生からすれば中小企業というカテゴリーに入ってしまうのです。
かくのごとく、BtoB企業はその業界内では大手であっても学生には知られていません。そこで学生に自社の良さなどを伝える工夫が必要です。ところが多くのBtoB企業は技術力の高さをアピールするだけで業界全体の展望や労働条件の良さなども合わせて話せていないのです。技術力の高さは理工系学部出身の技術職・研究職採用では有効でしょう。が、文系出身の総合職採用ではその良さが理解されないのです。このアピールポイントの違いを理解していない採用用担当者は多いのではないでしょうか。
理由2:研究室推薦で十分という古いモデルを過信している
BtoB企業のうち、技術職・研究職重視のメーカーにありがちな話。理工系学部だと、就活では学生の自由応募以外に研究室の教授推薦というものがあります。この教授推薦のために企業は大学のキャリアセンターではなく、各研究室の担当教員と接点を持とうとします。理工系で自由応募が盛んでなかった時代にはこの教授推薦で就活はほぼ決まっていました。
しかし、近年では学部卒・院出身ともに教授推薦だけでなく自由応募もその比重が高まっています。ところがBtoB企業は、教授推薦という古い採用システムを攻略しさえすればよい、と思い込むところもあるようです。この手法は昔に比べると機能しない、という大学(または企業)が増えつつあります。まして、文系出身学生からすれば無関係。結果、その企業が敬遠されることになってしまいます。
理由3:採用部署の人員が少ない
これもBtoB企業のうち、メーカーにありがちな話です。人材は宝で新卒採用は重要、と言いつつ、採用部署の人員は少ない、というメーカーは結構あります。とある分野で世界シェアをもっているα社。総合職の事務系だけでも毎年20人以上は採用しています。この採用規模で商社だと採用担当者は3人から5人、もしくはそれ以上います。ところがこのα社は2人。それも課長は部のマネジメント担当なので実質1人。当然とも言うべきか、選考書類は大学名でばっさり切っているとのことでした。これでは知名度など上がるわけがありません。
理由4:文系学部卒の総合職を軽視している
毎年応募をかける割に文系出身の総合職は数年に1人しか採用しないメーカーがあります。技術職・研究職がメインのメーカーにあって総合職をそこまで重視していない証拠でしょう。それから、理工系出身の社員に東大・京大や難関大出身者がズラリと並ぶため、文系出身者についてもあえて難関大出身者にしないと押さえが効かない、という事情もあるようです。
こちらも世界シェアのあるβ社の採用情報を見ていくと、技術職・研究職と同様、事務系総合職も難関大しか出身リストには登場しません。これも総合職を軽視している、その証左ではないでしょうか。
理由5:インターンシップで実質締め切り
β社のような難関大シフトをθ社は敷いていません。β社とは別分野で世界シェアを持つθ社は採用情報を見ていくと、技術・研究職だけでなく総合職も出身大学はバラけています。ところが、このθ社はそこまで知名度が高くありません。
その理由はインターンシップにありました。事務系総合職の採用も3年2月ごろまで展開するインターンシップからしか採用しないのです。θ社からすれば早い時期でのインターンシップであれば就活へのモチベーションの高い学生が集まっています。そこから採用していくのは効率がいい、と言えます。一方、知名度を上げるかどうか、という点では空回りしているでしょう。
学生の方から探す努力を
以上5点の理由からBtoB企業の知名度は学生の間では高くありません。企業によっては「わかる学生がわかってくれればいい」という開き直りの姿勢すら感じます。その結果、学生は学生で敬遠してしまい、もしくは存在すら気づかない、ということになってしまいます。
この悪循環は、長期的にはその企業だけでなく日本全体にとっても大きな損失です。BtoB企業の知名度向上、それから採用力向上のためには採用部署の人員増員などが求められます。
とは言え、そういう強化策はすぐ実行されるわけではありません(あるいはまったく実行されないことも)。そのため、就活生には、企業側からだけではなく学生側からどの企業が利益を出しているのか、どの業界で大手なのか、などを探す必要があります。
自著の宣伝というわけではない(嘘)のですが、拙著『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)では巻末に優良企業リストをまとめました。それ以外では、講談社+α新書の「優良企業」3部作(『新しいニッポンの業界地図 みんなが知らない超優良企業』『業界地図の見方が変わる! 無名でもすごい超優良企業』『2020年以降の業界地図 東京五輪後でもぐんぐん伸びるニッポン企業』/著者は3冊とも田宮寛之)がすぐれています。この3部作以外にも『就職四季報』(東洋経済新報社)シリーズや各社が刊行する業界地図(日本経済新聞社だと『日経業界地図2019年版』)などを参考にしてください。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
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