自己アピールはアイドルに学ぶ ~自分を「外から」見る意識忘れずに
就活教室 女子学生へ(5)
こんにちは。明星大学特任教授の菊入です。これから就活が本格化する大学3年の女子学生に向けて、就職活動の心構えや注意点をアドバイスするこの連載も最終回になりました。就活でもっとも大切なことは、採用試験や面接という「ステージ」の上でいかに自分を魅力的に見せるかにあります。あなたがもし、自分というタレントを売り込むマネージャーだとしたら、どう魅力をアピールしますか?売り込む相手はもちろん、会社の採用担当者です。マネージャーの目を意識すると、自分の「別の顔」が見えてきます。
マネージャー目線で「自分の見た目」をチェック
タレントやアイドルを売ろうとするマネージャーやプロデューサーの目で、自分を見てみましょう。言うまでもないですが、「誰が見るか」で評価は全く変わります。大学の友人なのか、担当教授なのか。あるいは親の目線なのか。就活の面接なら、その会社の採用担当者の目にどう映るかで、勝負が決まります。
マネージャー目線になりきるために、まず全身が映る鏡の前に立ちましょう。自分を他人だと思って見てください。このタレントさんをなんとか売り出したいと思っているマネージャーだとしたら、どんな評価をするでしょうか。まず1人の学生にモデルになってもらい、写真を撮りました。何も意識せずに撮ったのが左側の写真です。
学生の反応は「表情が乏しくて、とっつきにくい」というものでした。一方、自分で納得のいく笑顔を作ってもらってから撮影したのが右側の写真です。明らかに印象が違います。
何人かの他の学生にも、鏡で自分自身を見てもらいました。感想を聞くと「我ながらやる気なさそう。真顔が恐いし」「チャラチャラしてる。っていうか、ヘラヘラ?」「自信なさ加減がすごい」など、散々な自己評価がたくさん出ました。自分への"ダメ出し"の嵐です。なぜそう見えるのかを聞いてみると、「姿勢が悪い?」「フラフラ動いちゃってるからかな」「顔が暗い」などのコメントがあがりました。
まず、自分に"ダメ出し"をしてみる
このように、自分で自分を評価することを「自己モニタリング」と言います。学生にはさらに、「この人(自分)と話してみたいと思いますか」と聞いてみました。即座に「いや、特に話したくはないです」という答えが返ってきます。そこで、「マネージャーになって、この人(自分)にアドバイスをしてください」と注文を付けました。
すると「背中まっすぐにして」「恥ずかしがらないでまっすぐ立って」「スマイル」という具合に、いくつもリクエストが出てきました。そこで、その通りにしてもらいました。すると、印象がグッと良くなるのです。これが、自己モニタリングの結果に基づいて自分を変える行動。つまり「自己コントロール」です。
「自己モニタリング」も、「自己コントロール」も、人から押し付けられたわけではなく、自分で行うことです。だから「やらされ感」が少なくてモチベーション(やる気)を保ちやすいという特徴があります。
ふだん私たちは、自分の内側から世界を見ています。自分自身は視界に入っていません。そのため、自分が人からどう見えるか、ということよりも、自分が楽でいられることを優先し、背中を丸めていたり、ふらふらしていたりすることになります。しかし、マネージャーの気持ちになって、外側から自分を見ると、いかにそれが自分の印象を悪くしているかがわかります。
就活中の自分をしっかり採用担当者に印象付けるためには、マネージャーの目が必要です。自分の良いところを引き出すようにアドバイスをしましょう。
見た目だけじゃダメ。心と体もマネジメント
マネージャーが管理するのは、見た目だけではありません。心と体もメンテナンスが必要です。
例えば、「このタレントさんは、どのようなときに体調を崩しがちだろうか」とマネージャーは注意を払います。食べ過ぎた時なのか、あるいは季節の変わり目なのか。タレントのケースと同様に、自分という人の体調を押さえておきましょう。そろそろ来るぞ、と思ったら、「今夜は早めに寝たほうがいいよ」とか、「外出は控えよう」などのアドバイスをしましょう。
心の管理も同じです。「自分」はどんなときにやる気になるでしょうか。ほめられてやる気になるタイプであれば、「ほめ上手な友達の〇〇さんと会ってみたら?」と自分にアドバイスしたり、目標があるほうがいいのであれば、「来週までに、先輩訪問3件とか、目標を決めよう」とすすめましょう。
コマを動かす人になる
オリジンとポーンという理論があります。オリジンはゲームのチェスを指す人、ポーンはチェスのコマです。ゲーム盤全体を見渡してチェスを指す意識を持っている人の方が、「自分はコマの1つだ」と思っている人よりも成果を出しやすいし、満足感も高いのです。
自分のマネージャーになるのは、まさに、自分というコマを動かす人になることです。自分の内側からまわりを見るだけではなく、自分を含めた状況全体を見て、自分を動かしてみましょう。このように、コマを動かす意識を持つのは、就活だけでなく、あなたの人生全体を豊かにします。
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就活ルールの見直しが議論されています。いろいろな情報が飛び交う中で「自分たちの就活はどうなるんだろうか」と焦りや不安を感じるかもしれません。就職は、人生の大きな分岐点です。就活中に不安になったり、迷ったりするのは当然です。不安なのは、自分だけではないのです。そう思うだけでも、少しホッとしますよね。
迷ったら、周りを見回し、家族や先生、キャリアセンターの方々などに相談しましょう。適切に助けを求めることも、1つの大切な能力です。就活はそうした助けてもらう力を伸ばす機会でもあります。「1人ではない」「困ったら助けを借りる」――。この二つを忘れずに、一歩一歩進みましょう。
明星大学経済学部特任教授、JTBコミュニケーションデザイン ワーク・モチベーション研究所長。生涯発達科学博士。働く人のモチベーションについて専門的な研究を行う。大学ではキャリアや就職支援の講義を担当、企業とのコラボレーションによる講義も実施。JTBコミュニケーションデザインでは企業で働く人への研修やコーチング、経営層へのコンサルティングを行う。著書は「やる気が出なくて仕事が嫌になった時読む本」「職場でモテる社会学」「できる人の口ぐせ」等多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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