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経営学から見たイノベーションの要件とは? Special Lecture―― 経営学者 入山章栄 准教授

2018/12/10

激しい変化の時代到来とともに予測される様々な社会課題。大学教授はどのような解決策を思い描いているのか。アカデミックな視点から、各社会課題への解決策を講義してもらう。

1時限目 >>> 日本の競争力低下

経営学者 入山章栄 准教授(早稲田大学大学院経営管理研究科)

イノベーションの第一歩は「知の探索」

講師 経営学者 入山章栄 准教授(早稲田大学大学院経営管理研究科) 慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事した後、米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D. を取得。同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。専門は経営戦略論および国際経営論

最近、講演依頼をいただくと、そのテーマの約7割が「イノベーションについて」です。変化が激しい時代にイノベーションが重要であることは今や明白なのですが、将来の日本の競争力低下を危惧しながらもその実現に悩んでいるのでしょう。ここでいうイノベーションとは、グーグルやアップルが成し遂げた大きなイノベーションだけでなく、新しい事業、商品、サービスを生み出すこと、また日々の業務改善といったことも含め、会社が新しい取り組みによって変化することを指します。

ではイノベーションを起こすにはどうしたらいいか。世界の経営学では、何十年も前から主張されている原理があります。イノベーションの本質は『知』と『知』の組み合せであり、今ある既存の「知」と別の既存の「知」の新しい組み合せがイノベーションの源泉であるということです。これは経済学者シュンペーター(*1)が「ニューコンビネーション(新結合)」という言葉で80年以上前から唱えているものです。

しかし、認知心理学(*2) の視点でいえば、人間はどうしても目の前の「知」だけを見る傾向がある。そこで、できるだけ遠くを見て、幅広い知見を得て、新しい組み合せを作ることが重要になってきます。

このようにイノベーションには、新しい知見を得る「知の探索」(exploration)のための努力が大切です。さらに知の新しい組み合せをみつけたら、それを掘り下げる「知の深化」(exploitation)も必要です。この2つを兼ね備えた「両利きの経営」ができる企業はイノベーションを起こす可能性が高いことが海外の経営学では広く主張されています。欧米のグローバル企業ではこの考えに基づいて、「知の探索と深化」の両方を促すための経営戦略を積極的に取り入れています。その一端が、中途採用などによる多様な人材の獲得とダイバーシティの実現、成功・失敗の紋切り型で評価しない評価制度などです。

一方、多くの日本企業のように同じような資質の人材を新卒一括採用し、その社員が同じ会社に何十年もいるとなると、目の前の「知」と「知」の組み合せはすでに出し尽くされていて、イノベーションが起こりにくい状況になっているわけです。日本のこれまでの成功は、ひとつの商品やサービスを深く追究する「知の深化」に注力してきた結果といえるかもしれません。しかし今、「知の探索」の強化が必要なのです。

人と企業がビジョンでつながっていく社会へ

日本でも新規事業開発室などの部署を作り「知の探索」に取り組む企業があります。しかしなかなか成果に至らず、1、2年で活動が縮小されていくという例も少なくありません。そもそも「知の探索」は容易なことではなく、コストも時間も労力もかかるものです。しかも多くの組み合せは失敗する。これはどこの企業も同じです。

ではイノベーションを起こし続ける企業は何が違うのか。その要因の一つは長期的な「ビジョン」をもっているということです。例えば、ドイツのシーメンスは現在IoTのリーディングカンパニーですが、実は20年前からこの分野に投資をしていました。将来インターネットとモノがつながるということを予期し、我々はそこで世界一になろうというビジョンをもっていたのです。そのビジョンに向かって、ぶれることなく「知の探索」を続け、今に至っています。20年、30年といった将来を見据えたビジョンは「知の探索」の推進力となり、多少の変化や失敗があっても方針がゆらぐことはなくなります。しかしビジョンのない企業は何かが起きると目の前のことにとらわれ、方向性が変わり、結果、イノベーションが起こらなくなってしまいます。

もう一つ重要なのは、そのビジョンを社員一人ひとりに浸透させること。190カ国に事業を展開するユニリーバ・グローバルCEOのポール・ポールマンは、社会の衛生問題をいかに解決するかといった大きなビジョンを常に熱く語り、世界中の社員に浸透させる努力をして業績を伸ばしています。

このようにビジョンをもった企業だけが生き残っていく時代になると、個人も自分の生き方にビジョンをもち、共感できるビジョンの会社と働く、という方向に間違いなくなっていくでしょう。そう考えると、これからいい社会になっていくのではないでしょうか。ビジョンとビジョンのマッチングで人と企業が出合い、人は自分のビジョンに合った仕事ができるようになる。そして簡単な仕事はAIがやってくれる。そんな楽しい時代がやってくるかもしれません。

*1 ヨーゼフ・シュンペーター:20世紀前半の経済学者。イノベーションの理論の第一人者。

*2 認知心理学:人間がその知的能力を用いていかにして世界を認知するのかを分析・解明しようとする学問。心理学・神経科学・人工知能・人類学・言語学・哲学の分野にまたがる。

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