実際には、為替取引を伴わない貿易も存在することから、カネの流れはさらに大きさを増します。モノをはるかに上回るカネが世界中を駆け巡っているわけです。大国間の対立が貿易戦争にとどまらず、為替戦争や資本戦争という段階にまでエスカレーションするならば、世界経済に破壊的な影響を与える可能性を危惧すべきなのです。
デリバティブを含む為替取引高は16年に貿易額の約59倍
さらに興味深いのは、スポット取引にフォワード、スワップ、オプションなどのデリバティブ(金融派生商品)取引も加えた為替取引高が16年に貿易額の約59倍まで拡大している点です。デリバティブを含む為替取引高は13年に2000兆ドル近くでいったんピークアウトしたとはいえ、なお高水準といえます。
貿易額で除した倍率は01年のIT(情報技術)バブル崩壊の際に一時的に低下したものの、その後は一貫して上昇しています。貿易額の60倍程度まで膨れあがったデリバティブを含む為替取引高はカネの動きに抑制が利かなくなっている実態を示しているともいえるのです。
世界経済においては貿易取引よりも金融取引の影響が格段に大きくなっています。当然、運用のプロの世界でも為替取引の影響を予測することは非常に重要な投資判断の材料になっています。
実体経済が悪化すればマネーの動揺も避けられない
貿易という実体経済をはるかに超えたマネーの膨張は金融市場でのユーフォリア(陶酔)やバブルを生み出すことになります。しかしながら好循環が続くうちはいいですが、ひとたびその流れが逆回転すると、市場の混乱とバースト(破裂)が深刻になるわけです。
米中は貿易協議により問題解決の糸口を探っていますが、中国は国有企業の優遇など構造問題では譲らない構えです。協議は長引くことも予想され、19年に実体経済が悪化するようなら、マネーの動揺も避けられないでしょう。
トランプ米大統領がメキシコ国境の壁建設費を確保するため、非常事態を宣言したのも米経済のリスクといえます。米議会での与野党対立が決定的となり、経済政策の停滞が避けられないためです。世界を駆け巡る金融取引の脆弱性とリスクを再認識しておくべきだと思います。
東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長。1966年生まれ。横浜市立大学商学部卒業、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。89年大和証券投資信託委託入社、97年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社、2001年に東京海上アセットマネジメント投信(現在の会社)に転籍。29年にわたり内外株式や債券を運用する。