毎日朝食食べてる? 低体温の女性は月経異常傾向
「平均基礎体温が36℃未満の女性は38%で、35.5℃未満の人も2%」――月経管理アプリを利用する10代~50代の女性約3万3000人のビッグデータ分析から、そんな実情が明らかになった。低体温は女性の健康にどのような影響があるのか、そして、低体温を改善する方法は? この体温研究の分析を担当した、国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科研究員の本田由佳さんに聞いた。
40年前に比べ、平均基礎体温が0.3℃低下
「『低体温』の定義ははっきり定められていませんが、35℃未満だと判断力が落ちたり、循環機能の不具合が起きたりします。また、最近、月経不順や不妊の方々で、体温が35℃台の方が多く、『低体温の女性が増えているのでは?』という声が医療現場からよく聞こえてくるようになっていますが、これまで、現代の日本人女性の平均基礎体温を示す研究もほとんどなかった。ですから、ビッグデータの分析で、まずは基礎体温のデータを出したかったのです」と本田さんは話す。
基礎体温とは、朝目覚めてすぐに寝たままの状態で舌の下に婦人体温計を入れて測る体温。月経が始まってから排卵するまでの間は低温期、排卵後は高温期になり、その差は0.3~0.5℃とされる。
本田さんらの研究チーム(*1)は、2015年7月~16年4月に月経管理アプリを利用し、データ利用の同意が得られた10代~50代の女性のうち、基礎体温データが9~90日ある3万2735人を対象に分析を行った。月経管理アプリ利用者の年齢は20代~30代が63.5%で、約98%が50歳未満。分析結果は、ほぼ妊娠適齢期女性の現状を反映しているといえる。
「高温期と低温期をすべて合わせて計算した基礎体温の平均は36.53℃でした。最低基礎体温の平均は36.02℃で、1972年に報告された研究報告よりも0.32℃下がっていました。平均基礎体温を7段階に分けて見ると、34.0~35.49℃が2.0%、35.5~35.99℃が36.8%で、36℃未満の人が全体の約38%を占めていました。平均基礎体温が35℃以下の人も44人(0.1%)いました」(本田さん)
2015年7月~16年4月に月経管理アプリ「ルナルナ」を利用し、データ利活用の同意が得られた10代~50代の女性のうち、基礎体温データが9~90日ある3万2735人を対象に分析を行った。体温が34℃以下、あるいは、38.1℃以上の人は除外した。月経管理アプリ利用者の年齢は20代~30代が63.5%で、約98%が50歳未満。その結果、基礎体温の平均値は36.53℃だった。
3万2735人の平均基礎体温を分布を見ると、34.0~35.49℃が2.0%、35.5~35.99℃が36.8%で、36℃未満の人が全体の38%以上を占めていた。平均基礎体温が35℃以下の人は44人(0.1%)いた。
(*1)研究は産科婦人科舘出張 佐藤病院と順天堂大学医学部小児科、同大学院医学研究科病院管理学教室が共同で実施。解析したビッグデータは、エムティーアイの月経管理アプリ「ルナルナ」のもの。データはすべてWoman Conditioning Multi Support project 第18回日本抗加齢医学会総会発表資料
「朝食抜きでエネルギー不足」が低体温と関係?
平均基礎体温が36℃未満という低体温気味の女性が多い背景には何があるのだろう。本田さんは、朝食を日常的に取っていないために、体温を上げるエネルギーと栄養が不足している可能性があると指摘する。
「東京都と神奈川県の女子大学生56人に月経から10日間、基礎体温測定をしてもらい、生活習慣との関係を調べた別の調査で、基礎体温が低い群(低温期の平均36.08℃以下)で朝食を4~5日に1回以下しか食べない人が29%、日本人の平均並み群(同36.09~36.31℃)で23%。基礎体温が高めの群(同36.31~36.53℃)は全員がほぼ毎日朝食を取っていました。基礎体温が低い群ほど朝食欠食率が高かったのです」と本田さん。
ただし、活動量や筋肉量、痩せていること、といった要素は、今回の研究では低体温には影響していなかったという。
健康な女子大学生56人(平均19.8歳、平均BMI20.4)を対象に、基礎体温・体調管理アプリを使用して、3カ月間の基礎体温測定と生活習慣に関するアンケート調査を実施。月経開始日から10日間分(低温期)の平均基礎体温を、低、中(日本人の平均)、高の3群に分け、朝食の回数との関係を分析した結果、高体温群では朝食欠食が見られなかった(データ:Woman Conditioning Multi Support Project「一般女性体温と食事」より)。
月経異常、PMSの人は低体温になりやすい?
また、18~23歳の女性アスリート40人を対象に体温と月経の関係を見た本田さんらの別の研究では、基礎体温が高めの群には月経痛や月経不順などの月経異常がなかったのに対し、基礎体温が低い群では4人に1人(24%)、平均並み群では7人に1人(14%)に月経異常があった。月経前に頭痛や腹痛、イライラ感、うつ症状などがある月経前症候群(PMS)も、基礎体温が高めの群では見られないのに対し、低い群では47%、平均並み群でも44%がPMSに悩んでいた。
「月経痛や月経不順、PMSに悩む人は鎮痛剤を服用している方が多いが、鎮痛剤を服用し続けると体温が0.5℃下がるので、一度婦人科を受診し、きちんと診ていただくことをおすすめします」と本田さん。低温期でも基礎体温が36.31℃以上になるように生活改善することが有効といえそうだ。
健康な女性アスリート40人(平均年齢21歳、BMI平均22.0)を対象に、基礎体温・体調管理アプリを使用して、3カ月間の基礎体温測定と月経状況や生活習慣に関するアンケート調査を実施。月経開始日から10日間分(低温期)の平均基礎体温を低、中(日本人の平均)、高の3群に分け、月経異常と月経前症候群との関係を分析した。基礎体温が高い群ではPMSも月経異常も見られなかった(データ:Woman Conditioning Multi Support Project「アスリート女性と月経状況」より)。
不調がない人の低温期の基礎体温は36.31℃以上
「エネルギー不足や栄養不足状態が続くと、脳は生殖能力を犠牲にしてまずは体を守ろうとします。その結果、女性ホルモンの分泌が下がって月経異常になり、赤ちゃんが欲しいと思ったときに妊娠しにくくなるリスクも上がります。さらには体温が1℃下がると免疫力が30%低下するといわれています。体温は心と体の調子を見る大切なバロメーターです。基礎体温を測るのは面倒、と思うかもしれませんが、せめて月経開始から5日間だけでも基礎体温を測り、低温期の基礎体温が少なくとも36℃未満になっていないか、まずチェックしてほしい」と本田さんはアドバイスする。
ではここでクイズを一つ。
「月経があったら排卵もある」は、正しい?
「正しくない」が正解だ。月経があっても無排卵なこともあるからだ。
無排卵になっていないか、自分で確かめるために役立つのも基礎体温。低温期と高温期がきっちりあれば、排卵があると推測される。方法は、月経開始から3回目の月経が始まるまで2周期の基礎体温を測ってみること。「妊娠可能な年齢なのに低温期、高温期の差がなくて基礎体温がほぼ横ばいだったり、変動が激しく基礎体温の変化をグラフ化したときにギザギザした感じだったりしたら排卵がない可能性が高いです。そんなときは、産婦人科医に相談してほしい」と本田さん。
たんぱく質を積極的に取り、甘いものは減らして!
さて、基礎体温を測ってみて、平均基礎体温が平均の36.5℃未満、あるいは低温期が36.2℃未満だったらどうしたらいいのだろうか。
「朝食を取らない日がある女性は、必ず朝食を取るようにすることから。また、低体温気味の女性は、たんぱく質不足で甘いものの摂取量が多い傾向が見られました。低体温を改善するためには、甘い清涼飲料水や菓子類をなるべく取らないようにし、毎日の食事の中で、積極的にたんぱく質を取るようにすることも大切です。さらに運動をして筋肉を増やすことで代謝が上がり、基礎体温を高めることができます。低体温の改善は、PMSなどの不調の軽減にもつながる可能性がありますし、不妊の予防にもつながります」と本田さんは強調する。
例えば、いつも、おにぎりとサラダを昼食にしている人なら、ゆで卵や納豆を加えるなどたんぱく質をプラスするといいという。
今、疲れが取れない、冷える、肩が凝る、月経不順などの「なんとなく不調」に悩んでいる人は、その不調が低体温とつながっている可能性もある。月経から10日間の基礎体温をチェックして、36.2℃を下回るようなら、すぐに食生活を見直してみて!
国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター母性内科研究員。1997年順天堂大学スポーツ健康科学部卒業。健康計測器メーカー勤務などを経て、女性、アスリートの体組成・体温と生活習慣、栄養の研究、基礎体温記録手帳の開発・研究などに携わる。慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム上席所員、産科婦人科舘出張 佐藤病院の研究コーディネーターも務める。「女性と子どもの健康力をあげて日本を元気に!」を使命に活躍中。一児の母でもある
(ライター 福島安紀)
[nikkei WOMAN Online 2018年11月15日付記事を再構成]
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